樋口兼光

樋口兼光：木曾義仲の忠臣とその最期

樋口兼光は、平安時代末期に活躍した武将です。中原兼遠の子として生まれ、正式には中原兼光と名乗っていました。信濃国筑摩郡樋口谷（現在の長野県木曽町日義）を拠点としていたことから、樋口を称しました。木曾義仲の乳母子として幼少期を共に過ごし、その忠実な家臣として知られています。義仲四天王の一人にも数えられ、義仲の挙兵からその最期まで、常に主君を支え続けました。

義仲との出会いから活躍まで

兼光は義仲と深く結びついた関係を築き、弟の今井兼平と共に義仲に仕えました。いくつかの史料では、武蔵国の児玉党の婿であったとも伝えられています。治承・寿永の乱において、義仲が挙兵すると、各地を転戦しながらその軍を支えました。倶利伽羅峠の戦いなど、重要な戦いで活躍し、平家を都から追放することに貢献しました。寿永2年（1183年）7月、義仲と共に京へ入りますが、9月には後白河法皇の命により義仲は西国へ下向することとなり、兼光は京の留守居を任されました。これは、法皇監視という側面もあったと考えられます。

その後、法皇と義仲の対立が激化し、法住寺合戦が勃発します。この戦いにおいて、兼光は法皇を拘束するという重要な役割を果たし、義仲軍の中枢として活躍しました。

最期の戦い、そして死

元暦元年（1184年）正月、義仲は源行家・源義資討伐のため兼光を河内国石川へ出陣させました。しかし、その間に鎌倉軍が攻め寄せ、義仲は粟津の戦いで討ち死してしまいます。翌日、兼光の元に義仲の戦死の報が届きました。京に戻る途上で武装解除した兼光は、源義経の軍勢に捕らえられます。『吾妻鏡』によると、兼光と親しい関係にあった児玉党の人々が、兼光の助命嘆願を行い、義経が朝廷に訴え出たものの、兼光の罪状は重く、赦免はされませんでした。

2月2日、兼光は渋谷高重によって斬首されました。しかし、兼光の願いにより、義仲の傍らに首が置かれたと伝えられています。義仲を失った悲しみと、主君への忠義、そして主従の深い絆は、多くの史料や物語に描かれ、後世にまで語り継がれています。

『平家物語』における最期

『平家物語』巻第九「樋口被斬」では、兼光の最期がよりドラマチックに描かれています。兼光は源行家を討つため出陣していましたが、京での戦いの報を受け、引き返します。途中で弟の今井兼平の死を知らされ、悲しみに暮れるも、義仲の菩提を弔うため、京を目指します。僅か二十余騎で都にたどり着いた兼光は、児玉党の説得により降伏しますが、法皇の怒りを買い、死罪となります。斬首される際、義仲の隣に首を置くことを願い、その遺志が叶えられたという物語です。

子孫と評価

兼光の子孫については、戦国時代の武将、樋口兼豊やその子である直江兼続、大国実頼といった人物が挙げられています。

樋口兼光は、木曾義仲に忠誠を尽くした武将として、その生涯は多くの物語や史料に記され、現在にまで伝えられています。義仲への深い忠誠心と、悲劇的な最期は、後世の人々に強い印象を与え続けていると言えるでしょう。彼の生き様は、武士道の理想像の一端を示すものとして、これからも語り継がれていくに違いありません。

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