スラヴ民族の北東ルーシへの移動

9世紀から13世紀の北東ルーシ：スラヴ民族の移動と都市発展

本稿では、9世紀から13世紀にかけて、現在のロシアのヴォルガ川とオカ川の間の地域（便宜上、「北東ルーシ」と呼ぶ）へのスラヴ民族の移動と定住、そしてその後の社会と都市の発展について解説します。この地域は、スラヴ民族の到来以前はフィン・ウゴル系諸民族の居住地でした。

自然環境と先住民族

北東ルーシの中核をなすロストフ・スーズダリ地方は、肥沃な黒土地帯であるオポリエに属します。スラヴ民族の移住は、中世の温暖期と重なり、農耕に適した環境が彼らの定着を促進しました。一方、先住のフィン・ウゴル系民族（メリャ族、ムーロマ族など）は、狩猟・採集・漁労を主な生業とし、人口密度は低く、湖畔や河岸に集中していました。

スラヴ民族の移動と定住

スラヴ民族は、数世紀かけて段階的に北東ルーシへ移動しました。主な経路は、ノヴゴロド方面とヴォルガ川上流域からの二ルートです。クリヴィチ族はヴォルガ川沿いに進出し、スーズダリ地域の基礎人口を形成しました。ヴャチチ族はモスクワ南部やリャザン地方へ入植しました。考古学的調査からは、スラヴ民族が丸太小屋の集落を形成し、鉄器生産も行っていたことがわかっています。

10世紀後半以降、北東ルーシでは都市や村落の数と規模が急増し、特に12～13世紀前半にピークを迎えました。スーズダリ地方では、大規模な高密度集落が形成されました。この移住の背景には、温暖な気候による農業の盛況、国際交易の発展、毛皮需要の高まり、そしてキエフ大公国のキリスト教化への反発といった要因が考えられます。

フィン・ウゴル系住民との関係は、武力衝突は少なく、同化が進んだと推測されます。考古学的調査では、フィン系伝統様式の減少が見られ、10世紀中盤以降、年代記にフィン・ウゴル系諸民族の記述が減っていることからも、同化が完了した可能性が高いです。

ルーシ内部の人口移動

キエフ大公国成立後も、ルーシ内部での人口移動は続きました。北東ルーシへの流入は、北西ルーシ（ノヴゴロドなど）と南東ルーシ（キエフなど）から発生しました。北西ルーシからの移住は、温暖な気候と農業への期待によるものでした。南東ルーシからの大規模な移住は、12～13世紀に発生し、キエフ大公位争いの激化、遊牧民の襲撃増加、ドニエプル川交易の衰退などが原因と考えられます。北東ルーシは、比較的安全な地域であったため、多くの住民が移住先として選びました。

「プリャモエジャヤ・ドロガ（まっすぐな道）」の開通は、キエフと北東ルーシの交流を促進し、北東ルーシにおける都市の防衛強化につながりました。ユーリー・ドルゴルーキーやアンドレイ・ボゴリュブスキーといった公たちは、積極的に都市建設を推進し、殖民政策を推し進めました。

北東ルーシの諸都市

モンゴル侵攻以前の北東ルーシには、ロストフ、スーズダリ、ウラジーミル、モスクワなど多くの都市が建設されました。これらの都市の建設時期や経緯には諸説ありますが、多くの都市が、12世紀にロストフ・スーズダリ公ユーリーによって建設されたとされています。これらの都市の多くは、現在「黄金の環」として知られています。

モンゴル侵攻後

モンゴル侵攻後も、南ルーシからの貴族層を含む人口移動が続きました。北東ルーシは、南ルーシに比べて比較的早く復興し、モスクワ大公国へと発展していきました。

まとめ

9世紀から13世紀の北東ルーシは、スラヴ民族の積極的な移住と定住、そして都市建設によって発展を遂げました。自然環境、政治情勢、経済状況、そして先住民との関係が複雑に絡み合い、この地域の独特な歴史を形作っていったのです。

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