スール/その先は……愛

『スール/その先は……愛』（Sur）は、1988年に公開されたフェルナンド・E・ソラナス監督によるアルゼンチン映画です。

1976年から1983年までのアルゼンチンは、ホルヘ・ラファエル・ビデラ将軍率いる軍事独裁政権下にありました。この時代、都市ゲリラ関係者や市民運動活動家などに対する弾圧が横行し、3万人もの人々が行方不明になるという、いわゆる「汚い戦争」（Guerra Sucia）と呼ばれる悲劇が繰り広げられました。

映画は、民主化されて間もない1983年のアルゼンチンを舞台に、労働運動家フロレアル・エチェゴージェンとその妻ロシ、そして仲間たちの物語を描いています。物語は、フロレアルが5年間の刑務所生活を終えて出所するところから始まります。長い回想シーンを交えながら、過去の出来事と現在の状況が交錯し、登場人物たちの苦悩と愛が浮き彫りにされていきます。

あらすじ

1983年、民主化されたばかりのアルゼンチン。食肉工場の労働運動家だったフロレアル・エチェゴージェンは、5年間拘束されていた刑務所から出所します。彼は妻ロシのいる家を覗き見ますが、中には入りません。仲間であるエル・ネグロらと再会を果たしますが、心は晴れません。

物語は、5年前のフロレアルが官憲に追われていた頃の回想シーンへと移ります。廃駅に身を寄せていた彼は、そこでマリアという女性と関係を持ちます。その後、逮捕されたフロレアルは、パタゴニアの刑務所に投獄されます。妻ロシは夫を心配し、奔走します。そして、ついに刑務所で夫婦は再会を果たします。

しかし、フロレアルの仲間であるロベルトとロシの間には、密かに「愛」が芽生えていました。夫はこの事実を知り、刑務所での面会で激怒します。

作品情報

監督: フェルナンド・E・ソラナス
製作: エンヴァール・エル・カドリ / フェルナンド・E・ソラナス / パトリシア&ピエール・ノヴァ
脚本: フェルナンド・E・ソラナス
音楽: アストル・ピアソラ
出演:
ミゲル・アンヘル・ソラ - フロレアル
ススー・ペコラーロ - ロシ
フィリップ・レオタール - ロベルト
イネス・モリーナ - マリア
リト・クルス - エル・ネグロ
ロベルト・ゴジェネチェ - アマド
ウリセス・ドゥモント - エミリオ

エピソード

『スール/その先は……愛』は、1988年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞しました。

映画音楽は、タンゴの巨匠アストル・ピアソラが担当しています。ピアソラは、タンゴの哀愁と情熱を、映画全体に織り込んでいます。

作中には、バンドネオン奏者のネストル・マルコーニとタンゴ歌手のロベルト・ゴジェネチェが登場する場面があります。ゴジェネチェがタンゴの「スール」、「マリア」、「最後の酔い」を歌うシーンは、観る者の心を深く揺さぶります。


映画のタイトルにもなっている「スール（Sur）」は、スペイン語で「南」を意味します。この映画は、アルゼンチンの暗い過去と、そこから再生しようとする人々の姿を、タンゴの旋律に乗せて描いた、感動的な作品です。

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