セウトポリス

古代トラキアにおけるオドリュサイ王国の君主、セウテス3世によって紀元前325年から紀元前315年の間に建設されたヘレニズム様式の都市です。古代ギリシア語では「Σευθόπολις」と呼ばれました。その痕跡は現在、ブルガリア中部のスタラ・ザゴラ州、カザンラク近郊にあるコプリンカ貯水池の湖底深くに眠っています。この古代都市から数キロメートル北には、著名なカザンラクのトラキア人の墳墓をはじめとする、数多くのトラキア王の墓地が点在しています。遠く離れた南極大陸のサウス・シェトランド諸島、グリニッジ島にあるセウトポリス峰は、この古代都市にちなんで命名されたものです。

都市の性格と構造

セウトポリスは、一般的な古代ギリシアの都市国家、いわゆる「ポリス」とは性格を異にしていました。この都市は、あくまでセウテス3世と彼の宮廷が暮らすための場所として意図されたものでした。王の宮殿は単なる居所ではなく、サモトラケ島で崇拝された神秘的な神々、カベイロスを祀る神殿としての役割も兼ねていました。市街地の大部分は、王国の政治運営に関わる施設で占められ、主にトラキア人とギリシア人から構成される多くの人々は、城壁の外側で生活を営んでいたと考えられています。都市は紀元前281年にはケルト人による襲撃を受け、その歴史に傷跡を残しました。

セウテス3世の宮殿が神殿の機能も果たしていたことは、彼が単なる世俗的な支配者ではなく、祭祀王としての側面も持っていたことを示唆しています。彼はオドリュサイのトラキア人社会における、カベイリ信仰の最高位の祭司でもあったようです。この地域には、ぶどう酒と狂乱の神ディオニューソス、あるいはそれに相当するとされるトラキアの神サバジオスの聖所も存在していました。

セウトポリスの墓地からは、社会階層による埋葬方法の違いが見て取れます。上層階級の人々は、ミツバチの巣のような形をした蜂窩状墳墓や、大規模な墳丘墓に葬られました。中には、馬とともに埋葬された例もあり、彼らの地位の高さを物語っています。一方、より下層の人々は火葬され、質素な墓地に葬られました。

発見と考古学的調査

セウトポリスの遺跡は、1948年にゲオルギ・ディミトロフ貯水池（後に「コプリンカ」と改名）の建設工事中に偶然発見されました。しかし、既に工事が進められていたため、残念ながら遺跡は完成したダム湖の底に沈む運命となりました。幸いなことに、当時の共産主義政府はダムの完成を1956年まで延期することを決定し、考古学者たちに6年間の猶予を与えました。この期間に集中的な調査が行われ、可能な限り多くの遺物や情報を記録・保存することができました。

セウトポリス遺跡の調査で特に重要視されているのが、1953年に宮殿の遺構から見つかった、いわゆる「大碑文」です。この碑文はギリシア語で記されており、当時のトラキア社会が紀元前3世紀には既にヘレニズム文化の影響を強く受けていた、すなわちヘレニズム化が進んでいたことの動かぬ証拠となりました。

再建と保存への取り組み

湖底に沈んでしまったセウトポリス遺跡を後世に伝えるため、2005年にはブルガリアの建築家ジェコ・ティレフ氏によって大胆な再建計画が提唱されました。この計画は、貯水池の中に巨大な円筒状の壁を建設し、その内部の水を排水することで湖底の遺跡を露出させ、周囲からアクセス可能な状態にするというものです。世界遺産登録を目指すとともに、このユニークな方法で遺跡を保存・公開し、観光資源として活用することを目的としています。周辺自治体や様々なファンドがこの構想を支援していますが、ティレフ氏は計画の実現には少なくとも5000万ユーロの費用が必要であると試算しており、資金集めが課題となっています。

湖底に沈んだ悲劇的な運命をたどったセウトポリスですが、その遺跡は古代トラキアの王権、宗教、社会構造、そしてヘレニズム文化との交流を示す貴重な情報源であり続けています。現代の再建計画は、この失われた都市を未来へとつなぐための希望の光となっています。

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