セスティーナ:複雑な美しさを持つ詩形
セスティーナは、
プロヴァンスのトルバドゥール
詩に端を発する、高度に洗練された
詩形です。6行からなる6つの
スタンザ(連)と、それらを締めくくる3行の終結句(
アンヴォワまたはトルナーダと呼ばれる)から構成され、全39行に渡る複雑な構造を持ちます。
歴史:中世から現代まで
12世紀後期、アルナウト・ダニエルという
プロヴァンスのトルバドゥールによって発明されたとされています。その革新的な形式は、たちまち他のトルバドゥールたちにも受け継がれ、広く模倣されました。その後、時を経て、
ダンテ・アリギエーリ、
エズラ・パウンド、
W・H・オーデンといった著名な
詩人たちによって、セスティーナは現代
詩の領域においても再評価され、新たな息吹を吹き込まれてきました。
イギリスでは、
フィリップ・シドニーの『You Goat-Herd Gods』が最古のセスティーナ
詩とされています。また、アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーン、
ラドヤード・キップリング、ジョン・アッシュベリー、ジョアン・ブロッサ、エリザベス・ビショップなどもセスティーナ作品を残しています。
構造:巧妙な語の配置
セスティーナの最大の特徴は、各
スタンザの末尾に配置される6つの単語(キーワード)です。これらの単語は、最初の
スタンザから順番に配置され、続く
スタンザではその順番が複雑なパターンで変化します。このパターンは「逆行交差」と呼ばれ、数学的な規則性に基づいています。
例えば、最初の
スタンザで「A, B, C, D, E, F」の順に単語が配置されているとすると、2番目の
スタンザでは「F, A, E, B, D, C」となり、3番目は「C, F, D, A, B, E」というように、規則的に配置が変わっていきます。この配置の変化は、読者に知的な挑戦と、同時に、
詩全体の統一感と多様性を同時に感じさせます。そして、最終的な3行の
アンヴォワでは、これらの6つの単語が、巧みに組み込まれて作品全体をまとめ上げます。
アンヴォワの単語の配置パターンについては、いくつかのバリエーションが存在します。一例として、1行目に1番目と2番目の単語、2行目に3番目と4番目の単語、3行目に5番目と6番目の単語を使用する方法が知られています。しかし、必ずしもこのパターンに固執する必要はなく、
詩人によって様々な配置が試みられてきました。
英語圏のセスティーナにおいては、しばしば弱強五歩格(iambic pentameter)や10音節の韻律(decasyllabic meter)が用いられます。
理解への手引き:パターンを解き明かす
一見複雑に見えるセスティーナの語順パターンですが、一定の規則に従って変化しています。最初の
スタンザの語をAからFとすると、2番目の
スタンザの語順は、前の
スタンザの最終語Fから始まり、その後、前の
スタンザの1番目の語A、5番目の語E、2番目の語B、4番目の語D、3番目の語Cと続きます。このプロセスを繰り返すことで、各
スタンザの語順が決定されます。
このパターンは、数学的な操作として捉えることも可能です。「ABCDEF」を「ABC」と「DEF」に分割し、「DEF」を反転させた「FED」を「ABC」の前に配置することで、次の
スタンザの語順「FAEBDC」が生成されます。このプロセスを繰り返すことで、全ての
スタンザの語順を導き出すことができます。
セスティーナ創作においては、複数の意味を持つ単語や、名詞と動詞の両方として機能する単語を使用することで、
詩の表現力を高めることが可能です。
アンヴォワは、セスティーナにおける最後の3行で、6つのキーワードが使用されます。
ポルトガルの
詩人、Jorge de Senaは、
アンヴォワの1行目に1番目と2番目の単語、2行目に3番目と4番目の単語、3行目に5番目と6番目の単語を配置する方法を提唱しています。しかしながら、この配置方法は絶対的なものではなく、様々なバリエーションが存在します。
詩人たちは、
アンヴォワにおいても、キーワードの配置を自由に工夫することで、作品全体に独自の深みと複雑さを加えています。
セスティーナは、その厳格な構造と、それを用いた
詩的表現の柔軟性の高さから、多くの
詩人たちを魅了し続けている
詩形です。 その複雑な美しさを理解し、味わうことは、
詩への理解を深める上で貴重な経験となるでしょう。