セス・ハンコック

セス・W・ハンコック：サラブレッド競馬界の巨人

セス・W・ハンコック（1949年9月19日 - ）は、アメリカ合衆国のサラブレッド競走馬生産者として、そして名門クレイボーンファームの3代目当主として、競馬史に不滅の功績を残した人物です。本稿では、彼の波瀾に満ちた生涯と、数々の伝説的エピソードを紐解いていきます。

名門クレイボーンファームの継承と試練

1949年、著名なサラブレッド生産者であるアーサー・ボイド・ハンコック2世（ブル・ハンコック）を父に生まれました。7歳上の兄アーサー3世、5歳上の姉クレイ、4歳下の妹デルと共に、ハンコック家はサラブレッドの世界で育ちました。ケンタッキー大学で農学を学んだセスは、1971年に卒業後、クレイボーンファームに戻り、兄と共に家業を継ぐ予定でした。しかし、1972年、父の急逝と兄との確執により、セスは突然、クレイボーンファームを一人で運営することになります。

セクレタリアトシンジケート：歴史的偉業

セスに最初に訪れた大きな仕事は、伝説的名馬セクレタリアトの種牡馬シンジケート結成でした。1972年、2歳戦線を圧倒的な強さで制し、年度代表馬に輝いたセクレタリアト。しかし、名義上の馬主であるクリストファー・チェナリーの死後、莫大な相続税の支払いに困窮したチェナリー家（ヘレン・チェナリー）は、シンジケートの売却を決意。祖父の代からの親交があったハンコック家、そしてセスに白羽の矢が立ちました。難航が予想されたシンジケートの交渉は、セスが見事に成功。19万ドル×32口という、当時アメリカ競馬史上最高額となる608万ドルのシンジケートは完売しました。

数々の名馬とシンジケート

セクレタリアトの成功を皮切りに、セスはミスタープロスペクター、ダンジグ、アンブライドルドなど、数々の名種牡馬のシンジケート結成に携わり、アメリカ競馬界に多大な貢献をしました。父ブル・ハンコックが残した「競走馬を自分で所有しない」という遺言を守りながら、経営を安定させた後、セスは自ら競走馬の所有を始めます。

ケンタッキーダービー制覇とその後

1984年、所有馬スウェイルがケンタッキーダービーを制覇。クレイボーンファームが自身で所有馬を出し、ダービーを制覇したのは初めてのことでした。スウェイルはその後、ベルモントステークスも制しましたが、現役中に急死。他にも、BCマイル連覇馬ルアーに唯一土をつけたブレイム、日本でも活躍した種牡馬フォーティナイナーなど、数々の名馬を所有しました。一方で、クレイボーンファームが生産したヌレイエフやカーリアンなど、数々の名馬は、ハンコック家の所有馬としてではなく、他馬主のもとで活躍しました。

クレイボーンファームの未来へ

2015年、セスはクレイボーンファームの運営を息子セス・ウォーカー・ハンコック・ジュニアに譲り、引退しました。彼の功績は、数々の名馬の育成、歴史に残るシンジケートの成功、そしてクレイボーンファームの繁栄に集約されています。セス・W・ハンコックは、まさにサラブレッド競馬界の巨人と言えるでしょう。

参考文献

Steven Crist『ホース・トレーダーズ アメリカ競馬を変えた男たち』（草野純訳、サラブレッド血統センター）
William Nack『Secretariat: The Making of a Champion』（Da Capo Press Inc）
Kate Chenery Tweedy『Secretariat's Meadow』（Dementi Milestone Pub）
その他、本文中に記載の文献等

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