セト (聖書)

セトは、旧約聖書の「創世記」に登場する人物で、アダムが130歳の時に生まれたとされています。カインとアベルの弟であり、アベルがカインに殺害された後、神がアダムとイブに与えた「代わりの子」とされています。

セトの生涯と家族

創世記によると、セトは105歳でエノスをもうけ、その後も多くの息子や娘をもうけ、912歳まで生きたとされています。ユダヤ教の偽典である「ヨベル書」では、セトは妹のアズラと結婚し、その間に生まれた娘の一人であるノエムが、後にセトの息子エノスの妻となったと記述されています。
また、「アダムとイヴとサタンの対立」という文献では、セトは15歳の時にアベルの双子の姉妹であるアクレミアと結婚したとされています。これらの記述は、聖書以外の伝承に基づいたものであり、セトの家族関係について様々な解釈が存在することを示唆しています。

グノーシス主義におけるセト

グノーシス主義においては、セトは重要な役割を担っており、ノーレアの兄であり夫であるとされています。グノーシス主義は、知識（グノーシス）を重視する思想であり、セトはその象徴的な存在として位置づけられています。

セトの系図と文書仮説

「創世記」には、カインの末裔とセトの末裔がそれぞれ記載されています。興味深いことに、これらの系図には類似した名前がいくつか見られます。例えば、カインの系図（創世記4:17-22）とセトの系図（創世記5:1-32）には、類似した名前が複数存在します。
文書仮説という聖書研究の観点からは、カインの系図はヤハウィスト資料（J資料）に、セトの系図は祭司資料（P資料）に由来すると考えられています。J資料とP資料の間には、7組の類似した名前が存在し、ヤハウィスト資料の「イラド」は、祭司資料の「イエレド」に対応しているとされています。これは、異なる資料源がそれぞれ独自の系図を伝えてきた可能性を示唆しており、聖書テキストの複雑さを物語っています。

セツ派との関連

セトは、古代のグノーシス主義の一派であるセツ派とも関連付けられます。セツ派は、セトを重要な人物として崇拝し、独自の教義を展開しました。彼らは、セトを神聖な存在とみなし、その教えは初期キリスト教にも影響を与えたとされています。セツ派に関する情報は断片的であり、その全容を把握することは難しいですが、セトの存在が、宗教思想に与えた影響は大きいと言えるでしょう。

まとめ

セトは、旧約聖書に登場する一人物としてだけでなく、グノーシス主義やセツ派など、様々な宗教思想の中で重要な役割を担ってきました。その名前は、アベルの死という悲劇の後に与えられた「代わりの子」という意味を持ち、人類の歴史における新たな始まりを象徴する存在として、語り継がれています。
彼の生涯や家族関係、系図、そして彼に関連する思想は、聖書解釈や宗教研究において、多岐にわたる議論を呼んでいます。セトの存在は、古代の宗教観や思想を理解する上で、重要な鍵となるでしょう。

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