セルゲイ・タラソフ (ピアニスト)

ロシアの著名なクラシック音楽ピアニスト、セルゲイ・タラソフは、1971年に生まれました。彼の音楽家としての道は、若くして国際的な注目を集める出来事から始まります。

キャリア初期の逆境と飛躍

キャリアの初期、タラソフはモスクワ音楽院の正規の有力学生とは見なされていませんでした。1989年に開催された第4回日本国際音楽コンクールの参加者を決めるソ連国内の選抜オーディションにおいて、彼は審査員を務めるモスクワ音楽院の教授陣によって、年齢が幼いという理由だけで落選させられてしまいます。この結果に憤慨した彼の父親は、モスクワ音楽院が正式に派遣する4名の代表とは別に、自費でセルゲイを東京へと送り出しました。日本で開催された本選で、タラソフは見事に4人の公式代表を上回り、第2位という輝かしい成績を収めます。この予期せぬ成功は、選考を行ったモスクワ音楽院の教授たちの反感を招くこととなります。翌1990年のチャイコフスキー国際コンクールでは、前年の結果が影響したのか、本選には進んだものの入賞にとどまりました。このエピソードの詳細は、日本のピアニスト、中村紘子の著書「コンクールでお会いしましょう」にも描かれています。

専門的な研鑽と国際的な活躍

その後、タラソフはモスクワ音楽院で正式に「主要な」学生として認められることになり、著名な教授であるレフ・ナウモフ氏のもとで集中的な研鑽を積みました。彼はその課程を優秀な成績で修了し、卒業後は国際主要コンクールの常連として、瞬く間に世界中の音楽界で知られる存在となりました。国際音楽コンクール世界連盟に登録された権威あるコンクールに、彼は計9回も本選に進出するという、異例の記録を残しています。

彼の輝かしいキャリアは、数多くの国際コンクールでの優勝や上位入賞によって彩られています。以下にその主なものを示します。

1988年 - プラハの春国際音楽コンクールピアノ部門 第1位
1991年 - アラバマ国際ピアノコンクール 第1位
1995年 - ルービンシュタイン国際ピアノコンクール 第2位
1995年 - ブゾーニ国際ピアノコンクール 第2位
1996年 - シドニー国際ピアノコンクール 第1位
1997年 - 浜松国際ピアノコンクール 第3位
1998年 - ポルトガル・ポルト市国際音楽コンクール 第1位
1998年 - チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門 第4位
1999年 - 国際ピアノコンクール・ハエン賞 第1位
2001年 - アンドラ国際ピアノコンクール 第1位
2006年 - ヴァルセージア国際音楽コンクールピアノ部門 第1位
2006年 - CIPCE 第1位
2009年 - モンテカルロ音楽達人杯ピアノ部門 第1位

困難な時期とその克服、そして現在

順風満帆に見えた彼のキャリアにも、試練が訪れます。飲酒に伴う人身事故を起こしてしまい、その責任から2年間ほどの謹慎期間を余儀なくされました。しかし、この困難な時期を乗り越え、彼は再び質の高い演奏活動を展開し始めます。特に、2009年のモンテカルロ音楽達人杯ピアノ部門では、他の追随を許さない圧倒的な演奏で優勝を飾り、完全復活を印象付けました。

現在も、セルゲイ・タラソフは精力的に演奏活動を続けており、ソロ・リサイタルなどを世界各地で開催しています。彼のディスコグラフィーはそれほど多くはなく、主にコンクール出場時のライブ録音などが散見される程度です。

ディスコグラフィーの一部は以下の通りです。

Sergei Tarasov - Piano (CD, Album) Melodiya GCD 00006 1990
The Young Tarasov (CD, Album) Art & Electronics AED-68018 1990
CDK Music CDK0050 2016

彼のキャリアは、才能と努力に加え、困難な状況を乗り越える強い意志によって築き上げられたものであると言えるでしょう。

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