セルブロードキャスト

セルブロードキャストとは

セルブロードキャスト（Cell Broadcast）は、携帯電話などの移動通信端末に対し、災害や公共安全に関する情報を短文で一斉に同報配信するシステム・サービスです。通常のパケット通信とは異なり、通信事業者側から利用者側へ一方通行で情報を送信するブロードキャスト型の通信方式を採用しています。

セルブロードキャストの概要

ブロードキャスト型通信: 事業者側から利用者側へ一方的に情報を送信します。これにより、通信量が最小限に抑えられ、回線の輻輳を防ぐことができます。
セル単位での配信: 基地局と端末が1対1で通信するパケット通信とは異なり、セルを最小単位として、セル内の不特定多数の端末に情報を配信します。これにより、基地局側でのアドレス管理が不要になります。

セルブロードキャストの利点

輻輳の回避: 通信量が少なく、パケット通信のような回線パンクの心配がありません。
迅速な配信: 情報送信にかかる時間が短く、迅速な情報伝達が可能です。
アドレス管理不要: 対象エリア内のすべての端末に無差別に送信するため、基地局側でのアドレス管理が不要です。

セルブロードキャストの欠点

受信環境の制限: 電波状態の悪い場所や圏外では受信できません。また、パケット通信中や通話中の端末でも受信できない場合があります（ただし、ETWS規格では通信中でも受信可能です）。

セルブロードキャストの沿革と方式

CBS (Cell Broadcast Service)

3GPPによって標準化された初期のセルブロードキャスト方式です。GSM（2G）やW-CDMA（3G）規格に対応しています。もともとは、携帯電話でテレテキストのような文字多重放送を実現する目的で開発されました。SMSをブロードキャスト型にしたものが起源です。

用途: 交通情報やニュースの配信、携帯端末のソフトウェア更新、広告などに使用されました。しかし、情報の種類を選択できないという特徴があります。
技術的な特徴: CBSでは、CTCH（Common Traffic CHannel）という単方向のチャネルを使用します。端末はCTCHを監視することで情報を受信しますが、待機時の消費電力が増加するため、通常は必要時のみONにする設定がされます。

BC-SMS (Broadcast SMS)

CDMA2000（3G）規格向けに3GPP2が策定した方式で、CBSと同様に、メッセージを同報配信するものです。PCH、FCCH、BCCHのいずれかのチャンネルに設定されたスロットを利用します。

PWS (Public Warning System)

緊急情報配信に特化させた、CBSをベースにした方式です。2Gや3GのCBSを拡張しただけでなく、LTE（4G）規格にも対応しています。地震や津波などの自然災害だけでなく、武力衝突や大規模事故などの危険に対応した情報配信を目的としています。

ETWS (Earthquake and Tsunami Warning System)

日本では、地震や津波の警戒を呼びかけるために即時性が求められ、そのニーズに応えるために策定されました。ETWSは、CBSをベースに、配信時間の短縮や通信中の端末でも受信できるように改良されています。また、第1通知と第2通知の2段階構成で、初報をより早く配信できる点が特徴です。

CMAS (Commercial Mobile Alert System)

アメリカでは、災害だけでなく犯罪・事件発生に関する情報提供も求められたため、普遍性を重視したCMASが策定されました。CMASでは、大統領級の警報から、子供の誘拐・失踪情報まで、幅広い情報を配信します。また、通話中や通信中の端末では動作しないようになっています。

MBMS/BCMCS

緊急情報に特化しない、メッセージングサービスとしてのCBSを拡張した方式です。W-CDMA規格ではMBMS（Multimedia Broadcast Multicast Service）、CDMA2000規格ではBCMCS（BroadCast MultiCast Service）が策定されました。これらの方式では、動画などのマルチメディア配信も可能であり、ニュース配信はこれらの方式に移行しつつあります。

技術詳細

CBSの技術

伝送路: CTCH（Common Traffic CHannel）という単方向チャネルを使用。
情報受信: 端末がCTCHを監視し情報を受信。待機時消費電力を抑えるために、通常はCTCHをOFFとし、必要時のみONにする設定が一般的。
配信タイミング: システム情報のBCCH（BroadCast CHannel）とページング用のPCH（Paging CHannel）によって、CTCHのON/OFFが端末に伝えられます。
データ形式: 1ページにつき88オクテット、テキストは82オクテットまで。最大15ページまで連結可能。
受信端末の制約: 待受中の端末のみがCBSを受信可能。通信中の端末は受信できません。

BC-SMSの技術

伝送路: PCH、FCCH、BCCHのいずれかのチャンネルに設定されたスロットを利用。
情報受信: ESPM（Extended System Parameters Message）信号を用いるか、ページング用スロットにBC-SMSの開始通知とスロットを指定するインデックスを付加する方法。
受信端末の制約: CBSと同様に、待受中の端末のみが受信可能。

ETWSの技術（LTE向け）

伝送路: 共通のチャネルを使用。ページングチャネル→共通チャネルという順で情報が配信されます。
配信周期: 標準規格では80msから5.12sの間で設定。MMEから新規信号を受信すると、この周期に関わらず速やかに配信が開始されます。
第1通知: 災害種別を示すパラメータのみの短い情報で、SIB10 (System Information Block type 10)に格納。高速な端末動作を可能にします。
第2通知: メッセージ本文で、SIB11 (System Information Block type 11)に格納。最大9,600オクテットまでのやや長い文章を配信できます。
受信端末の制約: 通信中の端末も受信可能。解約済みのSIMカードが挿入されている場合でも受信できる場合があります。

CMASの技術

情報源: 政府機関や自治体など、複数の機関が情報を発信。アグリゲータが情報を収集・認証・優先順位付けを行います。
情報形式: CAP (Common Alerting Protocol)という統一様式の電文を使用。
配信エリア: 地理的な選別を行い、郡より広くならないように設定されます。
メッセージ: 最大90文字の単一言語。
受信端末の制約: 通話中や通信中の端末では動作しません。

各国での導入事例

日本: NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルが、エリアメールや緊急速報メールとしてCBS方式やBC-SMS方式を採用。
韓国: CBSでエンターテイメント情報や防災情報を配信。
スリランカ: 2004年のインド洋大津波の教訓から、産学官連携でシステムを開発。複数の言語で配信。
アメリカ: CMASを導入し、幅広い緊急情報を配信。
ヨーロッパ: EU-ALERTとして、国ごとの仕様変更を許容しつつ基本仕様を統一。
台湾: PWSとして、地震速報や気象情報を配信。

その他

地方自治体やJアラートの情報配信には、事業者が任意に設定する識別子が使用されています。
Androidの一部端末では、緊急速報を受信できない不具合がありましたが、共通受信仕様を策定することで改善されました。

まとめ

セルブロードキャストは、災害や緊急事態における情報伝達に不可欠な技術です。その多様な方式と技術的詳細を理解することで、より安全で迅速な情報伝達が可能になります。

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