ゼルミーラ

ゼルミーラ (Zelmira)

『ゼルミーラ』は、ジョアキーノ・ロッシーニが1822年に作曲した2幕構成のオペラ・セリアです。ナポリのサン・カルロ劇場の支配人、ドメニコ・バルバイアの依頼で作曲され、ロッシーニにとってナポリ向けの最後の作品となりました。

原曲名：Zelmira
原作：ドルモン・ド・ベロワの悲劇「ゼルミーラ」
台本：アンドレア･レオーネ･トットラ
演奏時間：第1幕1時間40分、第2幕1時間
作曲期間：1821年末から1822年
初演：1822年2月16日・サン・カルロ劇場（ナポリ）

作曲の経緯

1815年、ロッシーニはドメニコ・バルバイアに招かれ、ナポリでオペラを作曲していました。1821年末、バルバイアはウィーンのケルントナートーア劇場の支配人も兼任し、1822年4月から6月にかけてロッシーニ・フェスティバルを企画します。その幕開けを飾る作品として、ロッシーニにドルモン・ド・ベロワの「ゼルミーラ」が提供されました。

当時ロッシーニは、サン・カルロ劇場のプリマ・ドンナ、イザベラ・コルブランと恋愛関係にあり、結婚を前提にこの作品を作曲しました。1822年2月16日のナポリ初演の1ヶ月後、2人は結婚。同年のウィーンでのロッシーニ・フェスティバルでも、コルブランの歌唱は大成功を収めました。しかし、ウィーンから帰国後、ロッシーニが再びナポリの地を踏むことはありませんでした。

作品の特徴

『ゼルミーラ』は、物語の導入部が長く、ギリシャ神話に詳しくない観客には理解しにくい部分があります。例えば、ミティレーネの支配者アゾールがレスボス島を侵略した経緯や、レスボスの王ポリドーロが身を隠している理由などが、明確に説明されていません。

しかし、複雑な背景を考慮しなければ、全体として、ロッシーニの結婚相手であるイザベラ・コルブランの歌唱を活かすため、アンサンブルよりもアリアや重唱に重点を置いた構成となっています。また、ウィーンでの上演を意識して作曲されたことも、作品の特徴に影響を与えていると考えられます。

この作品は、ロッシーニの他のオペラと同様に一時忘れ去られていましたが、20世紀に入り、1989年7月にヴィチェンツァのオリンピコ劇場で、クラウディオ・シモーネの指揮、イ・ソリスティ・ヴェネティの演奏によって復活上演されました。

構成

第1幕

第1場：レスボスの城壁の前
第2場：歴代レスボス王の墓の中
第3場：ゼウス神殿の前
第4場：王宮の広間

第2幕

第1場：王宮の一室
第2場：王宮の外
第3場：牢獄の中

編成

登場人物

ゼルミーラ（レスボスの王女）：ソプラノ
エンマ（ゼルミーラの友人）：メゾソプラノ
イーロ（ゼルミーラの夫でトロイアの王子）：テノール
アンテノレ（ミティレーネからの侵略者アゾールの政敵でレスボス王位の簒奪者）：テノール
ポリドーロ（レスボス王で現在潜伏中）：バス
レウチッポ（アンテノレの友人）：バリトン

管弦楽

フルート2（ピッコロ持ち替え）
オーボエ2（2はコーラングレ持ち替え）
クラリネット2
ファゴット2
ホルン4
トランペット2
トロンボーン3
ティンパニ
大太鼓
シンバル
トライアングル
小太鼓
弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）
混声合唱

あらすじ

舞台は古代のレスボス島。

レスボス島はポリドーロ王によって統治されていましたが、隣国のミティレーネの支配者アゾールが侵攻し、王位を奪います。アゾールはポリドーロの娘ゼルミーラを妻にしようとしますが、拒否されたため、ポリドーロを殺害しようとします。ゼルミーラは父親を歴代レスボス王の墓に隠し、自身は父親を憎んでいると装い、ポリドーロがケレースの神殿に逃げ込んだという噂を流します。アゾールは神殿を焼き討ちし、ポリドーロは死んだものと思われます。その後、ミティレーネの王位を狙うアンテノレが、レウチッポの協力を得てアゾールを殺害します。

第1幕

オペラは序曲なしで始まります。

レスボスの城壁の前で、兵士たちがアゾールの暗殺について騒いでいます。そこへレウチッポとアンテノレが現れ、事件を知ります。レウチッポは、アンテノレが後継者になるべきだと宣言します。アンテノレは、ゼルミーラとその息子が計画の障害になると考え、ゼルミーラがアゾールを殺害したとして告訴することを発表します。

ゼルミーラは友人エンマと共に、ポリドーロの様子を見るために墓へ向かいます。墓の中で、ポリドーロは悲嘆に暮れています。ゼルミーラとエンマはポリドーロと再会し、運命を嘆き、希望を語り合います。軍楽隊の帰還を知らせる行進曲が聞こえてきます。

ゼウス神殿の前では、人々が凱旋したイーロを歓迎します。イーロは妻ゼルミーラと息子に会いたいと願いますが、アンテノレとレウチッポから、ゼルミーラがポリドーロを裏切り、イーロをも裏切っているという偽りの言葉を聞かされます。一方、ゼルミーラはエンマから、アンテノレがゼルミーラをアゾール殺害の罪で告発したことを知らされます。

王宮の広間では、アンテノレが王となり、戴冠式を挙げます。無実の罪で告発されたゼルミーラが現れ、無実を訴えますが、聞き入れられず投獄されます。

第2幕

王宮の一室で、アンテノレはゼルミーラがイーロに宛てた手紙を奪い、ゼルミーラが父親殺しに関わっていないこと、ポリドーロが生きていることを知ります。そしてゼルミーラへの監視を強化します。

エンマは、ゼルミーラの息子を連れて安全な場所へ避難させます。

城壁の外では、ゼルミーラへの愛を失ったイーロが悲しんでいます。そこへ墓の中からポリドーロが現れ、2人は再会を喜び合います。イーロはこれまでの出来事を説明し、ゼルミーラへの中傷に反論します。アンテノレはイーロがポリドーロを逃がそうとしていることを知り、ポリドーロを捕らえて投獄します。ゼルミーラは父親の命と引き換えに自分の命を差し出すと訴え、人々はゼルミーラを擁護する者と責める者に分かれます。

エンマは、アンテノレとレウチッポがポリドーロとゼルミーラを殺害する計画を立てていることを知り、イーロに助けを求めます。

牢獄の中で、ゼルミーラとポリドーロは不運を嘆いています。そこへイーロが軍勢を率いて現れ、2人を救い出し、代わりにアンテノレとレウチッポを逮捕投獄します。こうしてレスボスに平和が戻り、ゼルミーラは喜びの歌を歌い、幕が閉じます。

主要曲

第1幕

第1場のアリア「何を見たと思う、友等よ！」（アンテノレ）
第2場のアリア「ああ、すでに一日が過ぎ」（ポリドーロ）
第2場の三重唱「嘆き悲しむ父親の」（ゼルミーラ、エンマ、ポリドーロ）
第3場のアリア「懐かしい土地よ」（イーロ）
フィナーレ「土手を打ち破ってあふれ出る川」

第2幕

第1場のアリア「さあ、この子を、あなた方に預けます」（エンマ）
アリアフィナーレ「神々よ、真なのでしょうか」（ゼルミーラ）

録音及び映像

(省略)

関連事項

クラウディオ・シモーネ
サン・カルロ劇場

外部リンク

* ゼルミーラの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト

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