ソウル'69

『ソウル’69』（Soul ’69）

1969年、アトランティック・レコードからリリースされたアレサ・フランクリンの通算14作目にあたるアルバム、それが『ソウル’69』です。前作までの力強いオリジナル曲やスタンダードの解釈に加え、本作は珍しく全曲が既存の楽曲、すなわちカバー曲で構成された作品となりました。この選択は、アレサの幅広い音楽性を示すと同時に、後年の評価において独特な位置づけをもたらす要因ともなります。

商業的には成功を収めました。ビルボードのR&Bアルバム・チャートでは見事1位を獲得し、主要なトップ・アルバム・チャートでも15位にランクインしています。しかし、本作からシングルカットされた2曲、「トラックス・オブ・マイ・ティアーズ」（スモーキー・ロビンソン＆ザ・ミラクルズのヒット曲）と「ジェントル・オン・マイ・マインド」（ジョン・ハートフォード作）は、R&Bチャートでそれぞれ21位、50位、ポップ・チャートでは71位、76位という結果に留まり、アルバム全体の商業的な成功とは対照的に、シングルとしては大きなヒットには至りませんでした。

評論家からの評価は概ね好意的でした。特に音楽評論家のスタンリー・ブースは、当時『ローリング・ストーン』誌に寄稿したレビューの中で、『ソウル’69』を「おそらく過去5年間でリリースされたレコードの中で最高傑作」と絶賛。さらに「ビートルズによるロックのルネサンス以降、ポップ・ミュージック界が経験したことのない類まれな素晴らしさ」とまで表現し、その芸術性の高さを力説しました。このような圧倒的な賛辞を得たにもかかわらず、なぜか本作は後年になって一部で忘れ去られがちになり、評論家のリッチー・アンターバーガーは『ソウル’69』を「アレサ・フランクリンが1960年代に発表したアルバムの中で最も過小評価されている作品の一つ」と指摘しています。商業的成功と評論家からの絶賛、そして後年の「過小評価」という、本作を取り巻く評価の多面性は、『ソウル’69』をアレサのディスコグラフィーの中でも異彩を放つ存在としています。

本作に収録されたカバー曲は以下の通りです。

- ランブリン (ビッグ・メイベル) - 3:10
- トゥデイ・アイ・シング・ザ・ブルース (カーティス・レジナルド・ルイス) - 4:25
- リヴァーズ・インヴィテイション (パーシー・メイフィールド) - 2:40
- ピティフル (ローズ・マリー・マッコイ, チャーリー・シングルトン) - 3:04
- クレイジー・ヒー・コールズ・ミー (ボブ・ラッセル, カール・シグマン) - 3:28
- ブリング・イット・オン・ホーム・トゥ・ミー (サム・クック) - 3:45
- トラックス・オブ・マイ・ティアーズ (スモーキー・ロビンソン, ピート・ムーア, マーヴ・タープリン) - 2:56
- イフ・ユー・ガッタ・メイク・ア・フール・オブ・サムバディ (ルディ・クラーク) - 3:08
- ジェントル・オン・マイ・マインド (ジョン・ハートフォード) - 2:28
- ソー・ロング (ラス・モーガン, リーマス・ハリス, アーヴィング・メルシャー) - 4:36
- アイル・ネヴァー・ビー・フリー (ベニー・ベンジャミン, ジョージ・デイヴィッド・ワイス) - 4:15
- 夢の蝶々 (ボブ・リンド) - 2:45

本作の制作には、アレサ自身の他、多数の優れたミュージシャンが参加しています。

- ボーカル、ピアノ: アレサ・フランクリン
- ピアノ: ジュニア・マンス、ジョー・ザヴィヌル
- オルガン: スプーナー・オールダム、ジョー・ザヴィヌル
- ギター: ケニー・バレル、ジミー・ジョンソン
- ベース: ロン・カーター、ジェリー・ジェモット、トミー・コグビル
- ドラムス: ブルーノ・カー、ロジャー・ホーキンズ、グレイディ・テイト
- ヴィブラフォン: ジャック・ジェニングス
- パーカッション: ルイ・ゴイクデチャ、マニュエル・ゴンサレス
- 管楽器: デイヴィッド・ニューマン、キング・カーティス、セルダン・パウエル (テナー・サクソフォーン)、ジョージ・ドーシー、フランク・ウェス (アルト・サクソフォーン)、ペッパー・アダムス (バリトン・サクソフォーン)、ジョー・ニューマン、バーニー・グロウ、リチャード・ウィリアムズ、スヌーキー・ヤング、アーニー・ロイヤル (トランペット)、ジミー・クリーブランド、アービー・グリーン、ベニー・パウエル、トーマス・ミッチェル (トロンボーン)
- バック・ボーカル: エヴリン・グリーン、ワイリン・アイヴィ

プロデュースはジェリー・ウェクスラーとトム・ダウドが共同で担当し、アレンジはアリフ・マーディンが手掛けています。彼らアトランティック・レコードの強力なチームが、アレサの歌唱と一流のミュージシャンたちの演奏を見事にまとめ上げています。

高評価を受けながらも一部で「過小評価」されることとなった『ソウル’69』ですが、アレサの歌唱力と表現力の幅広さ、そして彼女を取り巻く凄腕ミュージシャンたちのアンサンブルは、このカバー集を通して遺憾なく発揮されています。後年、1990年代にはライノ・レコードからCD化され、再びその存在が多くの音楽ファンの間で認識される機会を得ました。本作は、クイーン・オブ・ソウルの名にふさわしい、深みと情感あふれるパフォーマンスを堪能できる一作と言えるでしょう。

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