ソユーズ1号

ソユーズ1号は、1967年4月23日に旧ソビエト連邦が打ち上げた有人宇宙船です。コールサインは「ルビーン」、ロシア語で「ルビー」を意味します。現地時間午前3時35分に行われたこの打上げは、人類の宇宙開発史上、初めて夜間に行われた有人宇宙船のフライトとして特筆されます。このミッションには、ベテラン宇宙飛行士であるウラジーミル・コマロフ氏が一人搭乗していました。しかし、この飛行は悲劇的な結末を迎えることになります。コマロフ氏は地球への帰還途中に事故で命を落とし、これは有人宇宙飛行における最初の飛行中の死亡事故となりました。

ミッションの経過と技術的問題

当初の計画は、ソユーズ1号の打上げ翌日に、さらに3名の飛行士を乗せた2号機を打ち上げ、軌道上でランデブーを行い、2名の飛行士が船外活動によって1号機に乗り移るという、壮大なものでした。

しかし、軌道に到達したソユーズ1号は、すぐに複数の深刻な技術的問題に直面します。特に重大だったのは、本来2枚あるはずの太陽電池パネルのうち、1枚が正常に展開しなかったことです。これにより、宇宙船全体が深刻な電力不足に陥り、システムの運用に支障をきたしました。さらに、宇宙船の正確な姿勢を把握するための装置にも異常が発生し、コマロフ氏は機体の制御に大きな困難を抱えることになります。軌道を13周する頃には、宇宙船の自動安定化システムは機能を完全に失い、手動システムも一部しか動作しない状態でした。

事態を重く見た管制側は、ソユーズ2号のミッションを変更し、軌道上でソユーズ1号の太陽電池パネル展開を試みる救難機としての準備を進めました。しかし、バイコヌール宇宙基地の悪天候（大雨）により、2号機の打上げは不可能となりました。ソユーズ1号の状況があまりにも深刻であったため、たとえ天候が良好であったとしても、2号機の打上げは中止されただろうと考えられています。

軌道13周目のコマロフ氏からの報告を受け、飛行管制責任者はミッションの中止と大気圏再突入の準備を開始しました。コマロフ氏の妻であるヴァレンティナ氏は管制室に招かれ、短い時間ながら夫と最後の会話を交わしました。コマロフ氏は宇宙船の激しい揺れに苦しみながらも、冷静さを保ち妻に別れを告げたと言われています。

帰還時の悲劇

軌道18周目を過ぎ、ソ連上空に到達した直後、ソユーズ1号は地球周回軌道から離脱するための逆推進ロケットを噴射しました。しかし、この段階でも宇宙船の制御はほとんど利かず、技術的な問題が多数発生しているにもかかわらず、なお無事な帰還へのわずかな望みは残されていました。

悲劇は最後の瞬間に起こりました。地球降下中のパラシュート展開シーケンスにおいて、設計上の不備からメインパラシュートが開きませんでした。コマロフ氏は手動で予備のパラシュート展開を試みましたが、こちらも減速用のパラシュートと絡まってしまい、正常に開傘しませんでした。これにより、ソユーズカプセルは減速することなく、秒速約40メートル（時速約145キロメートル）という高速で地上に激突しました。本来、衝突直前に逆推進ロケットを噴射して最終的な降下速度をさらに落とすはずでしたが、これが機能せず、激突と同時に爆発が発生し、カプセルは激しい炎に包まれました。

落下地点に駆けつけた農民たちが消火にあたりましたが、コマロフ氏は衝突の衝撃により既に死亡していました。

事故の背景と影響

後に、ソユーズ2号として打上げられる予定だった機体を調査したところ、ソユーズ1号と同様のパラシュート問題を抱えていたことが判明しました。もし2号機が打上げられていれば、コマロフ氏に加え、さらに3名の飛行士が犠牲となる可能性があったと考えられています。

ソユーズ1号および2号で計画されていたミッションは、約一年半後の1969年1月に行われたソユーズ4号および5号によって、無事に遂行されることになります。

ソユーズ1号の事故には、技術的な問題だけでなく、当時の政治的な背景も深く関わっていたとされています。ソユーズ宇宙船の原型（7K-OK）は、有人飛行に先立つ無人試験飛行で一度も完全な成功を収めておらず、毎回何らかの不具合が発生していました。ソユーズ1号のバックアップ乗員であったユーリイ・ガガーリン氏は、宇宙船の設計上の欠陥を認識しており、打上げを強行しようとする政治局からの強い圧力があることも知っていました。ガガーリン氏は、国家の英雄である自身をこのような危険な飛行には搭乗させないだろうと考え、コマロフ氏をこのミッションから降ろそうと試みたと言われています。

打上げの数週間前、コマロフ氏は友人に「もし自分がこの飛行に乗らなければ、彼らは代わりに予備乗員を乗せるだろう。そうなればユーリイが自分の代わりに死ぬことになる」と語ったという逸話が残されています。

ソユーズ1号の技術者たちは、事前に宇宙船に200箇所の設計上の欠陥があることを党指導部に報告したとされていますが、宇宙開発における一連の快挙をもってレーニンの誕生日を祝うという政治的な目的のために、これらの懸念は無視されたと言われています。宇宙開発競争におけるアメリカへの先行や、ソ連による月面着陸一番乗りを目指す動機が、ソユーズ1号の打上げを巡る圧力にどの程度影響したかは定かではありませんが、この事故はソ連の宇宙開発計画に大きな影響を与えました。

ソユーズ1号の悲劇により、後続のソユーズ2号および3号の打上げは1968年10月まで約18ヶ月間も延期されることとなりました。この計画の中断と、1969年7月3日に発生した無人の大型ロケットN-1の爆発事故、そして同年7月20日のアポロ11号によるアメリカの月面着陸成功が重なり、ソ連の有人月旅行計画は事実上断念されることになります。

この18ヶ月の中断期間を経て、大幅に改善されたソユーズ計画が再開された経緯は、ソユーズ1号の3ヶ月前に起きたアポロ1号の火災事故を受けて、アメリカの宇宙計画が徹底的に見直された状況と多くの類似点を持っています。

ウラジーミル・コマロフ氏は、ソビエト連邦の国葬に付され、その遺灰はモスクワの赤の広場にあるクレムリンの壁墓地に納められました。彼は、人類の宇宙開発史における最初の悲劇の犠牲者として、その名を刻んでいます。

乗員

ウラジーミル・コマロフ（搭乗）
ユーリイ・ガガーリン（バックアップ）

関連項目

ソユーズ
宇宙開発における事故

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