ソユーズ29号

ソユーズ29号ミッション

ソユーズ29号は、1978年に旧ソビエト連邦が遂行した重要な有人宇宙飛行計画です。宇宙ステーション「サリュート6号」を目指す五度目の試みであり、ステーションとの結合に四度成功、軌道上での二度目の長期滞在を実現しました。このミッションには、船長のウラジーミル・コワリョーノク宇宙飛行士と、フライトエンジニアのアレクサンドル・イワンチェンコフ宇宙飛行士が搭乗しました。彼らは、この宇宙滞在を通じて、当時の宇宙滞在期間の新記録となる139日間を樹立しました。帰還時には、軌道上でソユーズ31号と機体を交換し、その宇宙船で地球へ帰還しました。

ミッションの詳細

ソユーズ29号は、サリュート6号へ向かうべく1978年6月15日に宇宙へと旅立ちました。先行するソユーズ26号クルーが96日間という記録的な長期滞在を終えて以来、サリュート6号は3ヶ月間、無人の状態でした。6月17日、ソユーズ29号は無事ステーションとの結合を果たし、コワリョーノクとイワンチェンコフの両飛行士は、ステーションの再起動作業に着手しました。以前ソユーズ25号でサリュート6号へのドッキングを試みた経験を持つコワリョーノク飛行士は、同じ宇宙ステーションに二度訪れた最初の人物となりました。

彼らは、ステーション内の空気再生装置や温度調節システムのスイッチを入れ、水のリサイクルシステムを再び稼働させ、前任のクルーが残した水を再処理しました。無重力環境への身体の順応と並行して、サリュート6号の密閉を解除する作業が行われ、これにはおよそ一週間を要しました。6月19日には、サリュート6号は高度約368km×338kmの軌道に位置づけられました。ステーション内部は快適な20℃に保たれ、気圧は地上の標準に近い750mmHg（100kPa）でした。ステーション環境が整うと、両飛行士はエアロックの点検整備や持ち込んだ機材の設置、さらにはKaskad姿勢制御システムの試験などを実施しました。

6月24日から26日にかけては、姿勢制御用のエンジン噴射を避けるため、重力傾度を利用した安定制御方式で運用されました。搭載されたSplav-01加熱炉を用いた材料実験では、3日間ほど特有の匂いが発生しました。これは、以前のクルーが中央区画に設置していたため、真空環境での稼働が可能だったのに対し、今回は状況が異なったためと考えられます。この時期、ステーションの軌道が太陽と平行になる年に二度の期間にあたり、ステーションはほぼ一日中、太陽光に照らされていました。

国際的な訪問者と補給船

ミッション開始後、初の訪問者としてピョートル・クリムク飛行士と、インターコスモス計画による二番目の外国人飛行士であるポーランドのミロスワフ・ヘルマシェフスキ飛行士を乗せたソユーズ30号が、6月20日にサリュート6号に到着しました。これにより、一時的にステーション内は4人体制となりました。ただし、ソユーズ29号クルーの長期滞在計画に支障をきたさないよう、ソユーズ30号クルーの活動は限定的なものとなりました。彼らは自身のソユーズ宇宙船で7月5日に地球へ帰還しました。

続いて、有人宇宙ステーションへの無人補給としては二例目となるプログレス2補給船が、7月9日にサリュート6号に結合しました。この補給船は、水200リットル、食料250kgに加え、Kristall加熱炉、推進剤600kg、空気再生装置、コンピューター部品、修理用パーツ、フィルム、手紙など、約50日分の生活物資と実験機材を搭載していました。補給物資のステーション内への移動には約一週間を要しました。7月19日には、プログレス2からの燃料供給作業が完了し、役目を終えたプログレス2には不要になった機材やゴミが積み込まれ、8月4日に軌道離脱、大気圏に再突入しました。

この頃、乗組員はステーション内のトレッドミルを使用する際に、特定の速度で危険な振動が発生する可能性があるという忠告を受けました。これは、前任のソユーズ26号クルーによる共鳴実験の結果に基づいた助言でした。ステーション後方のドッキングポートにつながる区画に新たに設置されたKristall加熱炉では、ガラスや半導体の生成実験が継続されました。一方、Splav加熱炉では、テルル化水銀やテルル化カドミウム（6月18日）、アルミニウム、スズ、モリブデンの合金（6月24日）などが製造されました。

乗組員は、ある時、空気清浄機を交換すべき時期を知らせる二酸化炭素検出器が機能しなくなったことに気づく前に、頭痛を訴えました。通常8.8mmHg程度の二酸化炭素濃度が、頭痛発生時には62mmHgにまで上昇していたと推測されています。

宇宙遊泳と更なる補給

7月29日、ソユーズ29号の乗組員は、サリュート6号の運用としては二度目となる船外活動（宇宙遊泳）を実施しました。主な目的は、前年の12月にソユーズ26号クルーがステーション外壁に設置したMedusa実験のサンプル回収でした。この実験は、アルミニウム、チタン、鉄、ゴム、ガラスといった様々な材料が宇宙空間の環境にどれだけ曝露に耐えるかを試験するものでした。回収後の解析から、軌道上の微小なデブリによって、事前予測よりも多い200個もの微小クレーターがサンプルに付着していたことが判明しました。デブリの大部分は、剥離した塗料の破片や推進剤の残留物であると考えられています。

約2時間に及んだ船外活動中、乗組員は偶然にも眼下を流れる流星を目撃し、その一瞬、視界が遮られました。また、船外活動中にエアロックの空気が失われた際には、直前にドッキングしていたプログレス2の空気が補充に利用されました。

三番目の補給船であるプログレス3は8月8日に打ち上げられ、その二日後にサリュート6号に無事結合しました。このドッキングの際、ステーションの軌道は高度約244km×262kmに上昇されました。プログレス3は、イチゴ、タマネギ、牛乳といった生鮮食品を含む約1300kgの物資に加え、空気450kg、水190リットル、毛皮のブーツ、新聞、フィルム、手紙などを運びました。特に、イワンチェンコフ飛行士のギターが届けられたことは、長期間の滞在における乗組員の精神的な支えとなったでしょう。プログレス2からの燃料供給が完了していたため、プログレス3は初めて推進剤を運ばない補給船となりました。プログレス3は8月23日に役目を終え、軌道離脱しました。

Kristall加熱炉とSplav加熱炉での材料合成実験のため、ステーションは8月11日から重力傾度による姿勢制御を行いました。また、乗組員は8月16日以降、医学的な実験にも取り組みました。

機体交換と初の軌道上再ドッキング

ソユーズ29号クルーにとって二度目の訪問者は、8月26日に打ち上げられたソユーズ31号に乗船したヴァレリー・ブィコフスキー飛行士と、インターコスモス計画における三人目の外国人飛行士、東ドイツ出身のジークムント・イェーン飛行士でした。彼らはステーションに食料を届け、医学・生物学分野の多くの実験を実施しました。滞在中にソユーズ29号クルーと宇宙船を交換し、9月2日にはソユーズ29号（帰還に使用する機体）のエンジン試験を行いました。翌日、帰還船のシートライナーを交換した後、ソユーズ29号はステーションから分離し、ブィコフスキーとイェーンの両飛行士を乗せて地球へ帰還しました。

ソユーズ31号クルーが地球へ出発した後、9月7日、ソユーズ29号の乗組員はソユーズ31号宇宙船（ステーションに届けられた機体）に乗り込み、一時的にサリュート6号から離れました。ステーションは重力傾度を利用した安定モードに設定され、ソユーズはドッキングレーダーを再起動しました。サリュート6号は前方のドッキングポートを指定して応答しました。ソユーズはステーションから90度離れた後、機体を回転させ、ステーションの前方ポートに再びドッキングしました。これはソビエト連邦にとって初の試みとなる、軌道上での宇宙船の再ドッキングでした。この操作により、後方ポートを今後のプログレス補給船のために開放することが可能となりました。

ステーションでは様々な実験が続けられ、9月15日には乗組員は長期滞在で二度目となるシャワーを浴びました。10月に入るまでに、3000枚の写真が撮影され、50種類以上の実験が実施されました。9月20日には、この年の前半にソユーズ26号クルーが樹立した96日間の宇宙滞在記録を更新しました。

ミッション終盤と帰還

乗組員にとって三度目となるプログレス補給船、プログレス4が10月6日にサリュート6号の後方ポートに到着しました。プログレス4は、空気ボンベ、衣類、雑誌、食料など、約1300kgの物資を搭載していました。この補給品の中に、イワンチェンコフ飛行士の妻がブランデー入りのチョコレートが入ったキャンディの箱を密かに忍ばせていたというエピソードがあります。乗組員が箱を開けるとチョコレートが溶け出してしまい、回収に2時間を要したといいます。

ステーションへの燃料補給は10月13日に終了しました。10月20日には、ステーションの軌道を上昇させるためのエンジン噴射が二度行われました。プログレス4は10月26日に軌道離脱しました。

ミッションの終了が近づくにつれて、乗組員はステーションの主エンジンの異常に気づき、地上管制センターに報告しました。また、多くの追加実験が行われました。10月7日には月食が観測され、10月17日から18日にかけては大規模な医学検査が実施されました。10月22日には、Kristall炉およびSplav炉を用いた材料実験がさらに行われました。

最後の月、乗組員は地球帰還に備え、毎日3時間の厳しい運動プログラムを実施しました。10月30日には、ステーション内の実験装置の一部をソユーズ31号（ステーションにドッキング中の帰還船）へ移し替え、帰還船のエンジン試験やステーション内部の清掃を行いました。そして11月2日、両飛行士は地球へ帰還し、カザフスタンのジェスカズガン南東約180kmの地点に着陸しました。この着陸の様子は、ソビエト連邦のテレビで初めてライブ中継されました。

帰還後、乗組員は5日ほどで日常生活にほぼ適応し、25日で完全に回復しました。彼らは、地球帰還後に会話が困難になるという経験をした最初の乗組員となりましたが、これまでの長期滞在飛行士と比較すると、全体的な体調は良好でした。彼らは軌道上で合計139日間を過ごしました。

乗組員の長期滞在が終わり、サリュート6号が再び無人・密閉モードに戻された後、テレメトリーデータの詳細な解析が行われ、ミッション終盤に報告された推進システムの問題原因が特定されました。その結果、非対称ジメチルヒドラジン燃料のタンクの一つから推進剤が漏洩しており、燃料をエンジンに送り込む窒素加圧送風機を汚染していたことが判明しました。この状態のまま主エンジンを使用し続ければ、漏洩が悪化し、高度制御用スラスタを含む推進システム全体を破壊する危険性があるとの結論に至りました。このため、サリュート6号の残りの運用期間において、主エンジンを使用しないという決定が下されました。この推進システムに関する制限により、その後のステーションの軌道変更は、ステーションを訪れる宇宙船のスラスタを用いて行われることとなりました。

ソユーズ29号の乗組員が比較的良好な健康状態を維持して帰還できたのは、ミッション終盤に集中的に行われた運動プログラムの効果が大きいと考えられています。この経験は、今後のさらなる長期宇宙滞在計画の可能性を広げる重要な知見となりました。

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