ソリフェナシン

ソリフェナシンとは

ソリフェナシン（Solifenacin）は、過活動膀胱症候群に伴う頻尿、尿意切迫感、そしてそれに伴う尿失禁の治療に用いられる薬物です。この薬は「抗コリン薬」と呼ばれる種類の薬剤に分類され、膀胱平滑筋の不要な収縮を抑えることで症状を和らげます。アステラス製薬からは、コハク酸塩の形で「ベシケア」（VesiCare）という商品名で販売されており、2.5mg錠と5mg錠が利用可能です。ベシケアは2005年から臨床で使われています。

作用の仕組み

ソリフェナシンは、体内で特定の信号伝達を阻害する「ムスカリン受容体拮抗薬」として働きます。副交感神経からの刺激によって放出されるアセチルコリンという神経伝達物質は、特に膀胱の筋肉にあるM3というタイプのムスカリン受容体に結合することで、膀胱の収縮を引き起こし、排尿を促します。ソリフェナシンは、このアセチルコリンがM3受容体に結合するのを競合的に阻害します。

その結果、膀胱の筋肉の緊張が和らぎ、膀胱がより多くの尿を溜めることができるようになります。これにより、トイレに行く回数が減少し（頻尿の改善）、急に我慢できなくなるような強い尿意（尿意切迫感）や、それに伴う意図しない尿漏れ（尿失禁）の回数を減らす効果が期待できます。ソリフェナシンは体からの消失が非常にゆっくりで、その半減期は約50時間と長いことが特徴です。このため、1日に1回服用するだけで、一日を通して膀胱の過敏な動きを抑えることが可能です。

起こりうる副作用

ソリフェナシンはその作用機序上、いくつかの副作用を引き起こす可能性があります。特に代表的なものは、唾液の分泌が抑えられることによる口の渇きです。

国内で行われた過活動膀胱患者を対象とした臨床試験では、全体の約45.5%の患者さんに何らかの副作用が見られました。その中でも特に多かったのは以下の症状です。

口内乾燥：28.3%
便秘：14.4%
霧視（かすみ目）：3.3%

これらの比較的頻繁に見られる副作用の他に、まれではありますが、より注意が必要な重篤な副作用の報告もあります。これらには以下のようなものが含まれます。

全身性のアレルギー反応（アナフィラキシーショック）
肝臓の機能障害（検査値の異常として現れることがあります）
尿が全く出なくなる、または出にくくなる状態（尿閉）
心臓のリズムに関する異常（QT延長、頻脈、房室ブロック、徐脈など）
腸の動きが非常に悪くなる状態（麻痺性イレウス）
精神的な症状（幻覚やせん妄など）
急性緑内障発作（特に類薬で報告あり）

副作用が現れた場合は、速やかに医師や薬剤師に相談することが重要です。

使用にあたっての注意点

ソリフェナシンを使用する際には、いくつかの点に留意が必要です。

腎臓の機能が低下している患者さんの場合、薬が体外に排出されにくくなるため、少ない量から服用を開始するなど、慎重な投与が求められます。

ソリフェナシンは、従来の抗コリン薬と比較して、膀胱への作用を選択的に高めることで、口渇や便秘などの抗コリン薬特有の副作用を軽減するように設計されています。しかし、これらの副作用が全く起こらないわけではありません。特に服用を開始して間もない時期には、体の反応に注意を払う必要があります。

また、過活動膀胱と似た症状を引き起こす別の病気が隠れている可能性も考えられます。尿路感染症、尿路結石、膀胱がんや前立腺がんなどの腫瘍が原因である場合があるため、服用を開始する前に尿検査などによってこれらの疾患を除外することが推奨されます。

さらに、前立腺肥大症など、尿の通り道が物理的に狭くなっている（下部尿路閉塞）患者さんの場合、ソリフェナシンの使用によって尿閉が悪化するリスクがあります。このような患者さんでは、ソリフェナシンの治療よりも、まず閉塞の原因を取り除く治療（例えばα1遮断薬の使用など）を優先することが一般的です。医師はこれらの点を総合的に判断し、患者さんにとって最も適切な治療法を選択します。

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