ゾイデル海

ゾイデル海：消滅したオランダの湾

[オランダ]]北西部の海岸線に、かつて広大な湾が存在していました。それがゾイデル海（Zuiderzee）です。北海から約100kmに渡って入り込み、幅約50km、面積約5000平方キロメートルに及ぶ、平均水深4～5メートルの浅い海でした。オランダ語で「南の海」を意味するその名称は、[[北海]と対比して名付けられたと言われています。

ゾイデル海の形成

今から約2000年前のローマ時代、現在のオランダ北部の海岸線は西フリースラント諸島付近に位置し、その内側は湿地帯が広がっていました。現在のアイセル湖南部には「フレヴォ湖」と呼ばれる湖があり、中世にかけて周辺の泥炭地が浸食され、湖は徐々に拡大していきました。

12世紀から13世紀にかけて、海面上昇と激しい嵐による高潮が頻発。海岸線は浸食され、フレヴォ湖は海と繋がった入り江「アルメレ」へと変化しました。1170年の「万聖節の洪水」を皮切りに、数々の洪水災害がオランダ北部の低地を襲い、フレヴォ湖は北海と大きく繋がるゾイデル海へと変貌を遂げます。これらの洪水により、多くの村落が水没し、無数の犠牲者が出ました。1287年の「聖ルチア祭の洪水」では、5万人から8万人が命を落とす大惨事となりました。ゾイデル海の拡大は、アムステルダムを北海への交易拠点へと成長させました。

ゾイデル海と人々の生活

15世紀以降、ゾイデル海沿岸には潮受堤防が築かれましたが、北海の嵐による高潮や洪水の脅威は依然として存在しました。1421年の「聖エリーザベト洪水」では、72もの村が水没し、1万人以上の死者が出ました。

ゾイデル海沿岸には多くの漁村が栄え、アムステルダム、ホールン、エンクハイゼンなどの都市は、バルト海、イングランド、ハンザ同盟などとの貿易で発展しました。大航海時代には世界貿易の中心地となり、オランダ植民地帝国の繁栄を支えました。しかし、貿易の衰退とともに多くの港町は漁業に頼るようになり、20世紀には観光業が発展するまで、漁業が主要産業でした。ゾイデル海には、ウィーリンゲン島、ウルク島、スホクラント島、マルケン島などの中世以前から存在した島々があり、島民は漁業を営んでいました。しかし、波の浸食によりこれらの島の面積は縮小し、スホクラント島は19世紀に放棄されました。

ゾイデル海開発とアイセル湖

20世紀初頭、ゾイデル海沿岸の土地を守るため、そして干拓地を拡大するために、ゾイデル海の出口を塞ぐ大規模な開発事業が開始されました。1916年の大洪水をきっかけに、1919年から土木技師コルネリス・レリの指揮の下、「ゾイデル海開発計画」が推進されました。1932年に完成したアフシュライトダイクにより、ゾイデル海は外海から隔てられ、淡水化してアイセル湖となりました。その後、湖内部にも締切堤防が築かれ、ウィーリンゲルメール、北東ポルダー、フレヴォランド東および南の4つのポルダー（干拓地）が誕生しました。さらに、古代のフレヴォ湖の名にちなみ、フレヴォラント州が新設されました。1986年にフレヴォラント南ポルダーの完成をもって、ゾイデル海開発は完了しました。かつて存在したゾイデル海は、今やアイセル湖とフレヴォラント州という新しい土地の姿へと変貌を遂げました。

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