ゾウによる踏み付け

ゾウによる死刑執行：古代から19世紀まで続いた残酷な慣習

ゾウによる踏み付けは、東南アジアや南アジア、特にインドで広く行われていた、極めて残酷な死刑執行方法でした。公開処刑の場において、訓練されたアジアゾウが死刑囚の手足を破壊し、拷問を加え、最終的には殺害するというものでした。ゾウは多才であり、訓練によって死刑囚を即座に殺害することも、あるいは長時間にわたって苦痛を与え続けることも可能でした。

この慣習は、王族が飼育するゾウを用いて行われ、絶対君主の権力と、野生動物すらも支配する能力を象徴的に示す役割を果たしていました。ゾウによる処刑は、ヨーロッパ人旅行者にも広く知られており、当時の記録や日記にその様子が生々しく描かれています。18～19世紀にかけて、ヨーロッパ列強による植民地化が進展すると、この慣習は次第に衰退していきました。

アジアが主な地域でしたが、反乱兵の処刑などに古代ローマやカルタゴでも用いられたという記録も残っています。

ゾウの知性と王権の象徴

ライオンやクマなどの他の動物と比べ、ゾウは高い知性と飼いやすさ、そして多様性を持っていました。そのため、様々な方法で死刑囚を処刑するように訓練することができました。ゆっくりと拷問を続けることも、素早く殺害することも可能です。

歴史的に、ゾウはマフート（象使い）の管理下にあり、君主はゾウによる処刑を一時的に停止させたり、恩赦を与えたりすることがありました。複数の恩赦の事例が、アジア各地の王国で記録されています。シャムの国王は、死刑囚を「ひどく傷つけずに」殺すため、ゾウを訓練しました。ムガル帝国のアクバル大帝もゾウによる処刑を行い、時には恩赦を与えることもありました。また、ゾウは死刑囚がゾウを避けられれば釈放されるという神明裁判にも用いられた事例もあります。

ゾウの死刑執行への利用は、単なる王権の力行使を超えた意味を持っていました。ゾウは古くから王権の象徴であり、ゾウを自在に操ることは、君主の絶対的な支配力を示すものでした。野獣を支配する君主の姿は、民衆に畏敬の念を抱かせ、君主の権威を高める役割を果たしました。

地理的範囲と歴史

ゾウによる処刑は、西洋と東洋の多くの帝国で実施され、その記録は古代まで遡ります。19世紀まで続いたこの慣習は、アフリカゾウよりも小型のアジアゾウを中心に、東南アジア、インド、スリランカなどで広く行われました。アフリカでは、ゾウを同様の目的で利用した記録はありません。

東南アジアでは、インドシナ半島など広範囲でゾウによる処刑が行われました。シャム（タイ）では、ゾウは死刑囚を空中に投げ上げてから踏み殺すよう訓練されていました。ベトナムでも、最後の王朝である阮朝において、ゾウを用いた処刑が行われた記録が残っています。

インドでは、ヒンドゥー教やイスラム教の君主が、反乱者や敵兵などをゾウで処刑しました。マヌ法典にも、ゾウによる処刑が記述されています。ムガル帝国時代には、ゾウによる処刑が一般的な死刑方法であり、皇帝ジャハーンギールは娯楽のために多くの犯罪者をゾウに踏ませたと言われています。ゾウは、死刑囚を踏み潰すだけでなく、牙に装着された刃で切り裂くように訓練されることもありました。マラーター王国でも、ゾウによる処刑が行われました。

スリランカでも、ゾウによる処刑が実施され、ゾウは鋭利な鉄製の牙で死刑囚を突き刺し、引き裂いたと伝えられています。イギリスによる植民地化後、この慣習は廃止されましたが、以前処刑に使用されていたゾウが、その記憶を保持しているかのように振舞ったという記録も残っています。

西アジアでも、東ローマ帝国やサーサーン朝など、複数の帝国がゾウによる処刑を行っていました。中世のセルジューク朝やティムール朝でも記録が残っています。

西洋の帝国においては、ローマ帝国、カルタゴ、古代マケドニアなどが、戦争捕虜や反逆者などの処刑にゾウを利用していました。しかし、民間人を処刑した記録は少ないです。

現代とゾウつぶし

現代では、ゾウによる死傷事故はアフリカや南アジアで発生しますが、これは野生のゾウによる襲撃や、飼育下のゾウによる事故です。意図的に人間を殺害するためにゾウを使うことはありません。

「ゾウつぶし」という言葉は、若い野生のゾウを訓練するために、体罰や嫌悪刺激を用いる方法を指しますが、これはゾウによる死刑とは直接的な関連はありません。動物愛護団体からは批判の声が上がっています。

参考文献

(参考文献リストは省略)

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