タイガーバームガーデン (香港)

タイガーバームガーデン、別名「萬金油花園」または「虎豹別墅」は、香港の歴史にその名を刻むユニークな庭園でした。この庭園は、軟膏薬タイガーバーム（虎標萬金油）で巨万の富を築いた胡文虎（Aw Boon Haw、1882年 - 1954年）と胡文豹（Aw Boon Par、1884年 - 1944年）の兄弟によって1935年に建設されました。当初は胡一族の私的な別荘として利用されていましたが、1950年代に一般公開され、その独特な魅力で多くの人々を魅了しました。

庭園の中心には高さ44メートル、7層構造のパゴダがそびえ立ち、その周囲には中国仏教、儒教、そして様々な故事や説話を題材としたジオラマが多数配置されていました。これらのジオラマは、コンクリートや陶磁器を用いて精巧に作られ、地獄や極楽の様子を極彩色で表現していました。人形や動物、怪物の造形は、見る人によってはグロテスクとも感じられるかもしれませんが、そのキッチュな魅力が庭園全体の個性を際立たせていました。この独特な雰囲気が、開放当時、観光施設として高い人気を集める要因となりました。

しかし、1954年に胡文虎が亡くなると、庭園の敷地は徐々に切り売りされ、高層マンションなどに姿を変えていきました。そして、2000年には完全に閉鎖され、その歴史に幕を閉じました。幸いにも、施設の一部は香港の二級歴史建築に指定され、保護の対象となり、残された施設は香港特別行政区政府の管理下に置かれています。2019年には、虎豹樂圃（Haw Par Music）としてリニューアルされ、新たな形でその歴史が継承されています。

タイガーバームガーデンは、その開放当時、香港島湾仔区大坑道に位置していました。敷地面積は533,600平方メートル、総工費は1600万香港ドルという巨額が投じられました。特筆すべきは、入場料が無料であったことです。その特異な景観は、多くの観光客や著名人を惹きつけ、作家の三島由紀夫もその一人でした。1961年にタイガーバームガーデンを訪れた三島は、そのグロテスクな奇景を克明に観察し、その感想を著作に記しています。庭園の持つ独特な魅力と異質さは、多くの人々の記憶に深く刻まれました。

タイガーバームガーデンは、その歴史的価値と芸術的価値から、様々な文献で取り上げられてきました。谷川晃一とねじめ正一が編著した『タイガーバームガーデン』（1987年、新潮文庫）や、三島由紀夫の『決定版 三島由紀夫全集31巻 評論6』（2003年、新潮社）などがあります。また、シンガポールのハウパーヴィラやタイ王国のハウパーキッズスペースなど、関連施設も存在しており、タイガーバームガーデンの影響を伺うことができます。

タイガーバームガーデンは、その独特な魅力と歴史を通じて、私たちに多くのことを教えてくれます。今はもう存在しない幻の庭園ですが、その記憶は今もなお、多くの人々の心に生き続けています。

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