タイシャクカラマツ

タイシャクカラマツ（帝釈唐松）

タイシャクカラマツ（学名：Thalictrum kubotae）は、キンポウゲ科カラマツソウ属に分類される多年草です。この植物は、広島県東部の帝釈峡の石灰岩地にのみ自生する日本固有種であり、2005年に新種として記載されました。

特徴

タイシャクカラマツは、植物体全体に腺毛が密生し、わずかに粘り気があるのが特徴です。根茎は褐色で、膜質の鱗片に覆われ、横に伸びます。根は肥大せず、細いひも状です。茎は斜め上に伸び、1～2回分枝し、密に腺毛が生えています。草丈は30～40cm程度です。

葉は、根元から出る葉は花期には枯れており、茎から出る葉は互生し、2～5回の3出複葉で、灰緑色の表面と淡青緑色の裏面をしています。小葉は広倒卵形から倒卵形、または狭倒卵形で、先端が浅く3つに裂けています。小葉の両面には腺毛があり、独特の臭いがあります。葉柄の基部には暗褐色の膜質の托葉があり、小葉柄の基部にも小さな托葉が見られます。

花期は5～6月で、円錐花序に小さな花を下向きに咲かせます。花弁はなく、淡紫褐色の萼片が4つあり、花期にも残ります。雄蕊は10～12個で、葯は黄色、花糸は白色です。雌蕊は1～2個で、柱頭は三角形をしています。果実は紡錘形の痩果で、腺毛があり、両面に4つの脈があります。果柄はなく、痩果の先には矢じり状の残存花柱があります。染色体数は2n=42です。カラマツソウ属の中では開花時期が早い種です。

分布と生育環境

タイシャクカラマツは、広島県東部の帝釈峡の石灰岩地にのみ分布する固有種です。この地域特有の環境に適応して生育しています。

名前について

和名の「タイシャクカラマツ」は、生育地の帝釈峡に由来し、種小名「kubotae」は、タイプ標本を採集した植物学者、窪田正彦氏への献名です。

種の保全状況

環境省のレッドリストでは、準絶滅危惧（NT）に指定されており、広島県のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類（VU）に指定されています。かつては絶滅危惧IB類（EN）に指定されていたこともあり、生育地の環境変化や個体数の減少が懸念されています。

分類上の扱い

タイシャクカラマツは、かつてはニオイカラマツやイワカラマツの変種とされていましたが、詳細な観察と研究の結果、独立した種として認められました。チャボカラマツとは、小葉柄の基部の小托葉の有無、萼片の性質、花糸の色などで区別でき、イワカラマツとは、草丈、花の咲き方、果柄の有無などが異なります。

脚注

参考文献:

小池周司・浜田展也・武内一恵『広島の山野草』「夏編」、2011年、南々社
矢原徹一他監修『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ（増補改訂新版）』、2015年、山と溪谷社
大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 2』、2016年、平凡社
牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」（YList）
日本のレッドデータ検索システム
* Yuichi KADOTA「A New Species of Thalictrum (Ranunculaceae) from Western Honshu, Japan」『植物研究雑誌 (The Journal of Japanese Botany)』第80巻第6号、津村研究所、2005年、343-348頁

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