タカネスミレ

タカネスミレ（高嶺菫）

タカネスミレ（学名：Viola crassa subsp. crassa）は、スミレ科スミレ属に分類される多年草です。別名としてタカネキスミレとも呼ばれます。狭義には4つの亜種が認められており、それぞれに特徴があります。

特徴

タカネスミレは、地下茎が短く地中を這うように伸び、節間が非常に短いのが特徴です。地下から匍匐枝を出し、砂礫地で大きな群落を形成することがあります。地上茎は鮮やかな緑色で、自生地では砂礫に埋もれていることが多いため、実際よりも低く見えます。しかし、地上茎自体は長く、高さは5〜12cm程度になります。

根出葉は花期にも少数残っており、茎葉とともに腎心形で、先端は丸く、基部は深い心形をしています。葉身は長さ1〜2.5cm、幅1〜4cmで、3〜5cmの葉柄につながります。葉は厚く光沢があり、縁には低い波状の鋸歯が見られます。表面は濃緑色で、時に赤褐色を帯びることもあります。葉脈は目立ち、表面側に巻き込み、基部と葉柄には短い毛が生えています。托葉は卵形で長さ3〜4mm、先端はやや鈍く、縁は全縁またはわずかに鋸歯状になります。

開花期は6〜8月で、茎の上部の葉腋から2〜5cmの花柄を伸ばし、黄色の花を咲かせます。花柄には2個の線形の小苞葉があります。花は直径1.5〜2cmで、花弁は長さ10〜12mmです。上弁と側弁は反り返り、側弁の基部に毛はありません。唇弁は他の花弁よりも大きく、褐色の条線が入り、先端は鋭く尖っています。唇弁の距は太く短く、長さは約1mmで嚢状です。萼片は広楕円形で先端は鈍く、付属体はほとんどありません。雄蕊は5個あり、花柱はY字形に分かれ、先端は2つに大きく分かれ、柱頭には突起状の毛があります。果実は長卵形の蒴果で、毛はありません。染色体数は2n=48です。

分布と生育環境

タカネスミレは、日本固有種と考えられており、本州の東北地方（秋田駒ヶ岳、岩手山、薬師岳、焼石岳）の高山帯の砂礫地に生育しています。タイプ標本の採集地は岩手山です。朝鮮半島北部にも分布するという文献もありますが、詳細な検討が必要とされています。また、Viola crassa は、朝鮮半島の他、サハリン、千島列島、カムチャツカ半島にも分布していますが、日本に分布する本亜種を含む4亜種との関係は不明な点が多いです。

名前

和名のタカネスミレは、「高嶺菫」を意味し、高山に生えるスミレであることに由来します。種小名の crassa は、「厚い」「多肉質の」という意味です。

保全状況

環境省のレッドリストでは、準絶滅危惧（NT）に指定されており、保護が必要です。

亜種

タカネスミレには、基本亜種である subsp. crassa の他に、以下の3つの亜種が知られています。

エゾタカネスミレ (Viola crassa subsp. borealis)：葉は濃緑色で光沢がなく、無毛です。花期は6月下旬から7月で、花柱に毛がありません。北海道の高山礫地に分布しています。
クモマスミレ (Viola crassa subsp. alpicola)：葉は暗緑色でわずかに褐色を帯び、光沢があり、無毛です。花期は6月中旬から7月で、花柱の上部がT字形になり、毛がありません。花弁の裏面は紅紫色で、唇弁が非常に長いです。本州中部地方の高山礫地に分布しています。
ヤツガタケキスミレ (Viola crassa subsp. yatsugatakeana)：葉に光沢がなく、葉脈上に微毛が生えています。花期は6月下旬から7月中旬で、花柱に毛がありません。地下匐枝を出さないことが特徴です。本州中部地方の八ヶ岳に特産し、高山礫地に生育します。

参考文献

いがりまさし『日本のスミレ 増補改訂第2版』山と溪谷社、2005年
豊国秀夫『日本の高山植物』山と溪谷社、1988年
山田隆彦『スミレハンドブック』文一総合出版、2010年
清水建美編・解説、門田裕一改訂版監修、木原浩写真『山溪ハンディ図鑑8 高山に咲く花（増補改訂新版）』山と溪谷社、2014年
大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 3』平凡社、2016年
牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』北隆館、2017年

関連項目

日本産スミレ属の一覧
高山植物

外部リンク

タカネスミレ - コトバンク

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