タガチャル (フーシン部)

タガチャル（生年不詳 - 1238年）は、モンゴル帝国初期に活躍した武将です。彼はチンギス・カンの功臣ボロクルの血筋を受け継ぎ、幼い頃からチンギス・カンの親衛隊に所属していました。漢文史料では「塔察児」と記されています。

若き日の活躍と華北の治安維持

タガチャルは若くしてチンギス・カンに近侍し、その才能を発揮しました。チンギス・カンの死後、トルイが摂政を務めていた時代、華北地方では盗賊が横行し、治安が著しく悪化していました。そこで、トルイの命を受けたタガチャルは、治安維持のために華北へと派遣されます。彼は盗賊の首魁16名を捕らえ処刑し、その手腕によって華北の治安は回復し、大規模な盗賊の活動は鎮静化しました。

金朝遠征とタガチャルの軍功

1229年にオゴデイが第2代皇帝に即位すると、1230年から金朝への遠征が開始されました。タガチャルは「行省兵馬都元帥」の称号を与えられ、この遠征に従軍します。彼が率いる軍団は、ケシク（宿営）や諸王の軍勢からモンゴル兵を選抜して編成されたもので、モンゴル帝国の各地に派遣されたタンマチ（辺境鎮戍軍）の一つでした。この遠征で、タガチャルはテムデイという同僚とともに派遣されました。テムデイはジャライル部出身で、タガチャルとテムデイの関係は、かつてチンギス・カン時代にムカリとボロクルが果たした役割をモデルにしたものとされています。金朝遠征において、タガチャルはスブタイ、テムデイ、グユクとともに先鋒を務め、目覚ましい活躍を見せました。

タガチャルはタンマチを率いて南下し、まず河東一帯を攻略して潼関の金軍を打ち破り、河南一帯へと進軍しました。1231年には河中府を攻略し、1232年には白坡を渡ってトルイ軍と合流、金朝遠征における最大の激戦である三峰山の戦いに挑み、モンゴル軍を勝利に導きました。金朝の主力軍を破ったモンゴル軍は、首都の開封を包囲。金側は質子を出すことで一時的な和議を結びましたが、金朝の哀宗が蔡州城に逃れたため、タガチャル軍はこれを追撃・包囲し、哀宗の自殺と蔡州城の攻略によって金朝は滅亡しました。

金朝滅亡後と南宋との対峙

金朝の征服後、タガチャルとテムデイは引き続き華北に駐屯し、今度は南宋軍と対峙することになります。この頃、彼らのタンマチは駐屯地で徴兵した漢人兵を編入し、4万人隊からなる軍団を組織しました。この軍団は後に「河南淮北蒙古軍」と呼ばれるようになります。タガチャルの発案によりタンマチの華北駐屯が始まったかのように伝えられていますが、実際にはタンマチの征服地での駐屯は、モンゴル帝国の中枢で立案された辺境軍事政策の一環と考えられています。

1236年には南宋の光州・息州を攻略し、この功績によって息州の軍民3千戸を与えられました。1238年、寿州の戦いでタガチャルは亡くなりますが、彼の率いていたタンマチは後に「河南淮北蒙古軍」と改称され、タガチャルの子孫が代々この軍団を指揮することになりました。

子孫の活躍

タガチャルの子孫もまた、モンゴル帝国の拡大に貢献しました。息子のベルグテイは、父と同様にコルチに任ぜられ、主にモンケ・カアンの治世に活躍しました。1252年には父の率いていたタンマチ（当時は「四万戸蒙古漢軍」と呼称）の指揮権を引き継ぎ、淮水・漢水方面作戦に参加し両淮地方を平定する功績を挙げました。しかし1258年、襄陽・樊城の戦いの中で戦死してしまいます。

また、スンドゥタイは南宋征服に従軍して江西の11城を攻略し、広東一帯を制圧する功績を挙げましたが、論功行賞に至る前に亡くなってしまいました。

タガチャルの家系は代々、モンゴル帝国の軍事において重要な役割を果たし、その功績は歴史に深く刻まれています。

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