タナベキネマ

タナベキネマは、かつて大阪市東住吉区駒川に位置した映画館です。正式名称はタナベキネマですが、開業当初は田辺キネマと表記され、地元では駒川タナベキネマとも呼ばれることがありました。この映画館は、同じ建物内にタナベ国際劇場を併設しており、こちらも当初は田辺国際映画劇場という名称でした。タナベキネマは主に日本映画の名作を上映する名画座として、一方、タナベ国際劇場はピンク映画を専門とする上映館として、それぞれ独自の特色を持っていました。

その歴史は1958年（昭和33年）に始まりました。開業当時の大阪市東住吉区には、タナベキネマを含め、桑津敷島劇場、田辺松竹、田辺大映、バンビ劇場、北田辺映劇、針中野東映、針中野センター劇場、矢田映画劇場など、合計8館もの映画館が存在しており、映画が娯楽の中心だった時代を物語っています。

開業当初、建物は1階と2階で異なる用途に使われていました。1階の田辺キネマでは東宝、大映、日活、松竹といった国内主要会社の日本映画が上映され、2階の田辺国際映画劇場ではアメリカ映画などの洋画が3本立てで上映されるというスタイルでした。しかし、1970年代の終わり頃に大きな転換期を迎えます。建物の1階部分がパチンコ店「123」（延田エンタープライズ経営）へと改装され、映画館機能は2階に集約されました。この際に、2階には新たにタナベキネマ（座席数100席）とタナベ国際劇場（座席数90席）の2つの上映スペースが設けられ、それぞれが邦画名画座、ピンク映画専門館として再スタートを切ったのです。

立地としては、長らく南海平野線の駒川町停留場と中野停留場の中間に位置していましたが、1980年（昭和55年）11月27日、大阪市営地下鉄（現在の大阪メトロ）谷町線が延伸開業し、駒川中野駅が開設されると、同駅から徒歩約5分というアクセスとなりました。奇しくも同じ日、南海平野線はその歴史に幕を下ろしています。

地域に根差した映画館として、様々なサービスも行っていました。大阪府が実施する「まいど子でもカード」の協賛店舗であり、カード提示により一般料金から200円の割引が受けられました。また、毎週水曜日は女性を対象とした割引が実施され、新作が1,000円、それ以外は900円というお得な料金設定となっていました。大阪府に生まれ育った映画監督の亀井岳氏も、このタナベキネマでしばしば映画を鑑賞していたと伝えられています。

東住吉区内で最後まで営業を続けた映画館でしたが、残念ながら2012年（平成24年）3月31日、タナベキネマとタナベ国際劇場はともに閉館しました。閉館の主な理由は、映画上映のデジタル化が進む中、高額なデジタル上映設備への投資を断念したことでした。閉館前日まで上映されていた最終番組は、佐々部清監督の『日輪の遺産』（2011年公開）と吉田照幸監督の『サラリーマンNEO劇場版 (笑)』（2011年公開）の2本立て興行でした。閉館日である3月31日の最終上映は14時55分の回から開始されました。閉館当時の入場料は、タナベキネマが1,200円、タナベ国際劇場が1,100円でした。閉館時の支配人は岡秀生氏で、1985年（昭和60年）から実に27年間にわたり同館に勤務された方でした。なお、映画館は閉館しましたが、1階のパチンコ店「123」はその後も引き続き営業しています。

半世紀以上にわたり、地域の映画ファンに親しまれたタナベキネマとタナベ国際劇場は、東住吉区の映画文化の一時代を築いた存在と言えるでしょう。その閉館は、多くの映画館が姿を消していった時代の流れを象徴する出来事でした。

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