タムロチェリー

タムロチェリー：青森から世界へ羽ばたいたGIホース

タムロチェリー(1999年4月2日-2007年8月15日)は、日本の競走馬、繁殖牝馬として、その名を歴史に刻みました。2001年の阪神ジュベナイルフィリーズ（GI）、小倉2歳ステークス（GIII）という輝かしい戦績を残した彼女は、青森県で生まれ育ち、数々のドラマチックな出来事を経て、競馬界に大きな足跡を残しました。

誕生秘話：血統と人々の夢

タムロチェリーの誕生には、幾多のドラマが隠されています。1955年、青森県に設立された諏訪牧場は、長年にわたり良質な競走馬を生産することで知られていました。1979年の有馬記念を制したグリーングラス、1980年の安田記念を制したブルーアレツなども、この牧場で生産された名馬です。

タムロチェリーの父、セクレトはイギリスダービー優勝馬であり、1985年には世界最高額でシンジゲートが組まれるほど注目を集めました。しかし、カルメットファーム解散後、間梯三氏を中心に日本へ導入され、諏訪牧場で繋養されることになります。セクレトのシンジゲートは、青森県と北海道の生産者によって運営されましたが、思うような成果を出せず、1999年に解散しています。

母、ミスグローリーは、アメリカで買い付けられたグラッドタイディングスを母に持ち、地方競馬で活躍した後、繁殖牝馬となりました。セクレトとの間に生まれた最初の仔は残念ながら夭折しましたが、その後、タムロチェリーを含む数頭の競走馬を輩出しました。タムロチェリーの誕生は、間梯三氏の長年の夢と努力の結晶であり、その誕生年の10月には、セクレトが、翌年には間梯三氏自身が他界しています。間氏は亡くなる直前まで、「何故セクレトの仔が走らないのかわからない」と口にしていたといいます。

予想外の才能と運命の出会い

2000年、1歳となったタムロチェリーは競りに出されました。小柄な体格と、実績に乏しいセクレト産駒ということもあり、当初は注目されませんでした。しかし、JRAの担当者の目に留まり、競争相手のいないまま落札されます。その後、JRA宮崎育成牧場で育成され、阪神競馬場のセリ会へと出されます。

セリ会では、西園正都調教師がタムロチェリーを指名。西園調教師は、当初、より人気のある他の馬をターゲットにしていましたが、それらの馬が先に指名されたため、タムロチェリーをセレクトしたのです。この選択は、タムロチェリー、そして西園調教師の運命を大きく変える転換点となりました。

勝利への道：才能が開花

西園厩舎に入厩したタムロチェリーは、九州から栗東への輸送で痩せ細り、まるで「ネズミ」のようだったといいます。しかし、その小さな体には、大きな可能性が秘められていました。デビュー戦は11着と惨敗しましたが、その後着実に力をつけ、未勝利戦を勝利し、重賞レースへの道を切り開きます。

小倉2歳ステークス（GIII）では、15番人気という低評価を覆し、見事勝利。そして、阪神ジュベナイルフィリーズ（GI）では、オリビエ・ペリエ騎手とのコンビで、7番人気から大金星をあげます。この勝利は、ペリエ騎手にとってJRA史上初となる3週連続GI制覇、西園調教師にとっても厩舎開業4年目でのGI制覇という快挙でした。

その後、クラシックレースでは結果を残せませんでしたが、タムロチェリーの2歳時の活躍は、関係者、そして競馬ファンに深い感動を与えました。JRA賞最優秀2歳牝馬を受賞し、青森県では優勝祝賀会が開かれるなど、その功績は広く称えられました。

繁殖牝馬として：新たな未来へ

2003年、競走馬を引退したタムロチェリーは、生まれ故郷の諏訪牧場で繁殖牝馬となります。3頭の産駒を残し、2007年8月15日、がんのため生涯を終えました。しかし、その血統は、タムロブライトの仔であるミライヘノツバサが、2020年のダイヤモンドステークス（GIII）を制するなど、現在も競馬界で輝きを放ち続けています。

タムロチェリーは、その短い生涯の中で、人々の夢と希望を乗せて、多くの感動を与えてくれました。彼女が走り抜けた軌跡は、これからも語り継がれていくでしょう。そして、その血を受け継ぐ産駒たちが、新たな伝説を刻んでいくことを期待せずにはいられません。

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