タラ戦争

タラ戦争：アイスランドとイギリスの漁業権紛争

1958年から1976年にかけて、アイスランドとイギリスを中心に、漁業権を巡る激しい一連の紛争、「タラ戦争」が発生しました。この戦争は、アイスランドが主張する領海の拡大と、その海域におけるタラ漁業権を巡るイギリスとの対立が主な原因でした。結果として、現在の200海里排他的経済水域の概念確立に大きな影響を与えた歴史的な出来事となりました。

背景：資源の乏しい島国の戦い

アイスランドは資源に乏しい国であり、長らくデンマークの支配下にありました。しかし、20世紀初頭、トロール船の導入により豊富なタラ漁場を開発し、大きな経済的繁栄を遂げます。第二次世界大戦中はアメリカ合衆国の支援を受け、ヨーロッパへのタラ供給を継続しました。しかし戦後、近代化された大型トロール船がアイスランド近海に押し寄せ、水産資源の減少が深刻な問題となりました。1945年のトルーマン宣言（大陸棚資源は沿岸国が管理できる）を受け、アイスランドは自国の水産資源保護に乗り出すことになります。

第一次タラ戦争（1958-1961）：領海の拡大

1958年、アイスランドは領海を4海里から12海里に拡大しました。イギリスはこれを認めず軍艦を派遣、アイスランド沿岸警備隊との小規模な衝突が発生しました。しかし、NATOの仲介やアイスランド国内の政権交代を経て、1961年、イギリスは12海里領海を承認。国際司法裁判所への付託を約束する交換公文も締結されました。

第二次タラ戦争（1972-1973）：50海里への拡大と激化する衝突

1972年、アイスランドは漁業専管水域を50海里に拡大。イギリスと西ドイツは国際司法裁判所に提訴しましたが、アイスランドは交換公文が無効として裁判を無視し、衝突は激化しました。アイスランド沿岸警備隊はトロール船の網を切断する「ネットカッター」を使用し、イギリス側は高速タグボートで護衛に出ましたが、体当たり合戦に発展。イギリス漁船への砲撃や、アイスランドの船舶への反撃なども発生しました。アイスランドはNATOのイギリス戦闘機の管制空域からの排除や国交断絶をほのめかし、最終的に1973年11月、アイスランドはイギリス船の一部水域での操業を認める妥協案を受け入れ、戦争は終結しました。この協定はイギリスの年間漁獲量を制限し、1975年11月までの暫定的なものでした。

第三次タラ戦争（1975-1976）：200海里への拡大と国交断絶

水産資源の回復が見られない中、1975年10月、アイスランドは漁業専管水域を200海里に拡大。11月、再び武力衝突が発生し、激しさはこれまで以上となりました。1976年2月、アイスランドはイギリスと国交を断絶。NATO加盟国間で初の事態でした。しかし、EECが200海里排他的経済水域設定を決定したことで、イギリスは立場を失います。NATOの交渉により、同年6月、両国は新たな協定を結び、国交は回復しました。

その後：200海里時代の到来と漁業管理

タラ戦争の終結は、イギリスの北洋漁業に大きな打撃を与え、多くの漁師が職を失いました。一方、アイスランドのタラ資源は回復せず、現在も北大西洋のタラ漁業には厳しい制限が課せられています。アイスランドの主張を機に、世界各国は200海里排他的経済水域を設定し、漁業管理体制は大きく変化しました。タラ戦争は、現代の漁業管理システムと国際関係に多大な影響を与えた歴史的事件として、記憶されています。

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