タンギー爺さん

タンギー爺さん：ゴッホが描いた画材商の肖像

フィンセント・ファン・ゴッホによって1887年夏頃と冬頃に描かれた油彩画「タンギー爺さん」（仏: Le Père Tanguy、英: Portrait of Père Tanguy）は、パリで画材店を営んでいたジュリアン・フランソワ・タンギーをモデルにした肖像画です。

概要

この作品にはほぼ同じ構図のものが2点存在し、特にロダン美術館所蔵の作品はゴッホの代表作としてよく知られています。また、タンギーを描いた他の肖像画を含め、計3点の作品が存在するとされることもあります。

背景には浮世絵が描かれており、ゴッホのジャポニスムへの関心が強く表れている点が大きな特徴です。これらの浮世絵は、文京区千駄木にあった「いせ辰」の版画が元になっているとされています。

1887年夏頃に描かれたとされる作品は、彫刻家オーギュスト・ロダンのコレクションとなり、現在はパリのロダン美術館に所蔵されています。一方、1887年冬頃（または1888年初頭）に描かれたとされる作品は、スタブロス・ニアルコス氏のコレクションとされていますが、その現在の所在については不明です。

制作順については諸説あり、画集などではロダン美術館所蔵の作品の方が先に制作されたとするものがある一方で、静岡県立美術館ロダン館の解説では、ロダン美術館所蔵の作品の方が後であるとされています。

ロダン美術館所蔵の作品は、2001年に開催された「ロダンと日本」展（静岡県立美術館、愛知県美術館）に出品され、その図録で浮世絵との関連性が詳しく解説されました。

背景の浮世絵

「タンギー爺さん」の背景に描かれている浮世絵は以下の通りです。

歌川広重 「富士三十六景 さがみ川」（山口県立萩美術館、ファン・ゴッホ美術館蔵）
歌川広重 「五十三次名所図会 四十五 石薬師 義経さくら範頼の祠」（山口県立萩美術館、ファン・ゴッホ美術館蔵）
歌川国貞（三代目歌川豊国） 「三世岩井粂三郎の三浦屋高尾」（山口県立萩美術館、ファン・ゴッホ美術館蔵）
渓斎英泉 「雲龍打掛の花魁」（千葉市美術館蔵）
この作品は裏焼きで描かれています。当時の美術雑誌に裏焼きの状態で掲載されたものをゴッホがそのまま描いたと考えられています。
作者不詳 「東京名所 いり屋」（山口県立萩美術館蔵）
この作品は長らく歌川広重（2代目）の「東都名所三十六花選 入谷朝顔」とされていましたが、1999年に無名のちりめん絵（クレポン）であることが特定されました。
残りの1点は、まだ特定されていません。無名の浮世絵師によるもの、広重の『江都名所 吉原日本堤』または英泉の『江戸八景 吉原夜の雨』にゴッホが雪を描き加えたなど、様々な説があります。天水桶を乗せた長屋が描かれていることから、場所は吉原であると推測されています。

モデル：ジュリアン・フランソワ・タンギー

ジュリアン・フランソワ・タンギー（1825年-1894年）は、パリで画材店兼画商を営んでいました。若い頃にはパリ・コミューンに参加し、逮捕・拘留された経験を持っています。そのためか、タンギーは貧しい芸術家たちに理解を示し、絵画による画材代の支払いを認めていたと言われています。

彼の店には、ファン・ゴッホをはじめとする印象派やポスト印象派の無名画家たちが頻繁に出入りしており、本作のタイトルにもなっている「タンギー爺さん（ペール・タンギー）」の愛称で親しまれていました。タンギーは、ファン・ゴッホの死に際して葬儀に参列した数少ない人物の一人であり、その後もゴッホの絵を展示し続けたそうです。

また、同時期にタンギーの夫人をモデルにしたと推測される肖像画も残されています。

関連事項

フィンセント・ファン・ゴッホの作品一覧
浮世絵
ジャポニスム

外部リンク

山口県立萩美術館のタンギー爺さんの解説

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