ダイハツ・アプローズ

ダイハツ・アプローズ：拍手喝采から幕切れへ至る11年間

ダイハツ工業は、かつてシャルマンの後継車種として、アプローズという小型5ドアセダンを製造・販売していました。同社フラグシップモデルの座に就いたこの車は、1989年、ジュネーヴショーでMS-X90の名称で参考出品されたのち、市場に投入されました。

それまでダイハツはこのクラスの車種において、トヨタ自動車との業務提携関係を利用し、カローラのプラットフォームを流用したシャルマンを販売していました。しかし、バブル景気絶頂期の好調な自動車市場を背景に、ダイハツはトヨタから独自開発の許可を得て、アプローズの開発に踏み切りました。

アプローズのボディは一見するとオーソドックスな4ドアノッチバックセダンを思わせますが、実際はトランクとリアゲートが一体となって持ち上がる、スーパーリッドと呼ばれるハッチバック構造を持つ5ドアセダンでした。この斬新なデザインは、当時のコンパクトカー市場において、他に類を見ないものでした。

搭載エンジンは1,589ccの直列4気筒SOHCで、電子制御燃料噴射式（EFI）仕様（最高出力120PS）と電子制御キャブレター仕様（最高出力97PS）の2種類が用意されました。駆動方式はFFとビスカスLSD付きフルタイム4WDの2種類、トランスミッションは5速MTを基本に、FF車には4速ATも設定されていました。

しかし、発売直後から燃料タンクの技術的問題に起因する事故やトラブルが相次ぎ、アプローズの販売は深刻な打撃を受けました。給油時のガソリン逆流や走行中の車両火災といった事故は、消費者の信頼を大きく損ないました。

こうした問題にもかかわらず、ダイハツにおける数少ない登録車セダンとして、アプローズはマイナーチェンジを繰り返しながら生産が継続されました。1990年には「アプローズθ（シータ）」へ車名変更、1992年にはキャブレター仕様の廃止とEFI化、1997年には内外装デザインの大幅変更とMT仕様の廃止など、改良が重ねられました。しかし、販売台数は伸び悩み、2000年にはシャレードと共に日本国内での販売を終了しました。11年間の総生産台数はわずか2万2,000台でした。

アプローズは日本国内だけでなく、ヨーロッパ市場にも進出しました。ドイツでは、アプローズをステーションワゴンに改造するキットが販売されており、ベルギーでは輸入業者がこのキットを用いて改造した「アプローズ・ブレーク」を正規商品として販売していました。

アプローズの車名は英語で「拍手喝采」を意味します。モデル途中から使われたサブネーム「θ（シータ）」は、「9」を意味するギリシャ文字で、1990年代に発売されたことを示唆しています。しかし、その華々しい車名とは裏腹に、アプローズは様々な問題を抱え、短命に終わった車種として自動車史に名を刻むこととなりました。

2023年12月には、第三者委員会による調査報告書で、アプローズの認証申請における不正行為が認定されました。具体的には、EFI仕様のHDエンジンの出力試験での不正加工や、エアバッグレス仕様の前面衝突試験における頭部加速度計の校正値不正操作が指摘されています。これらの不正行為は、アプローズの開発・生産における不祥事として、大きな問題となりました。

アプローズは、ダイハツの技術力と販売戦略における課題を浮き彫りにしたモデルと言えるでしょう。革新的なデザインと潜在能力を持ちながらも、技術的な問題や市場の動向に対応しきれず、販売不振と不正行為という暗い影を背負って歴史の幕を閉じました。その短い生涯は、自動車メーカーにとって、技術開発と品質管理、そして倫理的な経営の重要性を改めて問いかけるものとなりました。

もう一度検索