ダグラス・ムーア

ダグラス・ステュアート・ムーア（Douglas Stuart Moore, 1893年8月10日 - 1969年7月25日）は、アメリカ合衆国出身の多才な音楽家です。作曲家としての活動に加え、教育者、そして文筆家としてもその才能を発揮しました。

ムーアの音楽作品は、舞台音楽、演奏会用音楽、映画音楽など多岐にわたりますが、とりわけ英語オペラ『悪魔とウェブスター博士』（1938年）と『ベイビー・ドウのバラード』（1956年）は、彼の代表作として広く知られています。

生涯と音楽的背景

ニューヨーク州ロングアイランドで生まれたムーアは、詩人で米国議会図書館司書のアーチボルド・マクリーシュと学生時代からの親友であり、共同でオペラ創作を行うなど、互いに刺激し合う関係でした。

1917年にはイェール大学に進学し、ホレイショ・パーカーとヴァンサン・ダンディに師事しました。しかし、第一次世界大戦の影響で海軍に従軍することになります。終戦後、パリに留学し、ナディア・ブーランジェのもとで研鑽を積みました。1921年にはクリーブランド美術館の音楽監督に就任し、同時にエルネスト・ブロッホからも指導を受けました。1926年から1962年までの長きにわたり、コロンビア大学音楽学部で教鞭をとり、後進の育成にも尽力しました。また、音楽鑑賞に関する2冊の著作を残しており、アメリカ文芸アカデミー国立研究所の総裁も務めるなど、多方面で活躍しました。

ムーアの音楽は、同じくアメリカの作曲家であるクインシー・ポーターと比較されることがあります。ポーターとは経歴が似通っている部分があるものの、作曲家としての性格や作風は対照的でした。ムーアは、自身の『交響曲（第2番）イ長調』で示されるように、同時代の新古典主義音楽にも関心がありましたが、ポーターのように厳格な絶対音楽の作曲家として生きることはできませんでした。ムーアは生まれつきの旋律家であり、ブロッホの薫陶を受けながらも、ロマン派以前の音楽伝統から完全に離れることはありませんでした。

作風の特徴と影響

ムーアの音楽は、サミュエル・バーバーと同様に新ロマン主義に分類されることもありますが、バーバーとは異なり、大衆音楽やアメリカ民謡の影響を強く受けています。オペラにおいては、アメリカ西部開拓時代の史実を題材とした『ベイビー・ドウのバラード』や、テレビ業界を舞台にした現代人の日常生活を風刺的に描いた『色恋、あるいはソープ・オペラ』など、独自の題材選択が際立っています。これは、師であるパーカーの恩師、チャドウィックの創作姿勢に回帰するような側面も持っています。

ムーアのオーケストレーションは、バーバーのような重厚さや華麗さはありませんが、明晰さと透明感があり、色彩的で効果的です。特に『ベイビー・ドウのバラード』の中の「ベイビー・ドウのアリア」は、アメリカ出身のリリック・ソプラノ歌手に非常に人気があり、積極的に録音されるなど、広く愛されています。

主要な作品

ムーアの主要な作品には、以下のものがあります。

弦楽四重奏曲
オペラ『大地の巨人』（1951年度ピューリッツァー賞受賞作）
オペラ『頭のない騎手』
オペラ『鳩の翼』
室内オーケストラのための『農場日誌』
弦楽合奏のための『コティヨン組曲』

また、『交響曲イ長調』は、日本フィルハーモニー交響楽団によって録音され、現在ではCDで聴くことができます。

ダグラス・ムーアは、アメリカの音楽界に大きな足跡を残した作曲家の一人であり、その作品は今もなお多くの人々に愛され続けています。

外部リンク：
The Ballad of Baby Doe web site

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