ダッジ・バイパー GTS-R

ダッジ・バイパー GTS-R：伝説のレーシングマシン

ダッジ・バイパー GTS-Rは、アメリカン・マッスルカーの象徴であるダッジ・バイパーをベースに、クライスラー、フランスのオレカ、イギリスのレイナードの技術力を結集して開発されたレーシングカーです。1995年、カリフォルニア州ペブルビーチで開催されたコンクール・デレガンスで鮮烈なデビューを飾りました。

開発の経緯：進化を遂げたアメリカン・マッスル

バイパーのモータースポーツへの挑戦は、1990年代初頭、RT/10をベースにしたプライベーターによるマシン開発から始まりました。しかし、オープントップボディの剛性不足や開発資金の制約により、十分な成果を上げることができませんでした。

転機となったのは、1995年のバイパーのマイナーチェンジです。クーペボディのGTSモデルが追加され、ヨーロッパ市場開拓も視野に入れた本格的なレーシングプログラムがスタートしました。このプログラムの中核を担ったのが、クライスラーでした。ロードカーとレーシングカーの技術を融合することで、更なる性能向上を目指す戦略です。

ヨーロッパ市場攻略のため、クライスラーは、ル・マン24時間レースでの豊富な経験を持つフランスのレーシングチーム、オレカと提携しました。オレカは車両製造、メンテナンス、ヨーロッパでのワークスチーム運営を担いました。イギリスのレイナードからはシャシーなどの主要コンポーネントが供給されました。

市販モデルをベースに開発されたエンジンは、軽量化と耐久性を追求。排気量は、レギュレーションの最大値である8000ccに合わせた7998ccとなり、圧倒的なパワーを誇りました。空力性能の向上のため、リアウィング、ディフューザー、フロントスプリッターなどの空力パーツを装着。視認性向上のためのフォグランプも装備されました。冷却性能を高めるためのボンネットスクープ、ルーフとリアフェンダーのエアダクトなども特徴的です。

2005年までに製造されたGTS-Rは57台（うちプロトタイプ5台）。ワークスチームが使用した車両はごく一部で、多くはプライベーターに販売され、世界中のサーキットで活躍しました。

地域による名称の違い：ダッジとクライスラー

市販車は主にダッジ・バイパーとして知られていますが、ヨーロッパではクライスラーブランドで販売されていたため、GTS-Rも多くのレースではクライスラー・バイパー GTS-Rとしてエントリーされました。北米のレースではダッジ・バイパー GTS-Rとして参戦しました。車体にはクライスラーとダッジのどちらのバッジも付いておらず、「VIPER GTS-R」のロゴのみがボンネットに記されていました。

輝かしいレース戦績：数々のタイトルを獲得

1996年のデビュー以来、バイパーGTS-Rは様々なレースで活躍しました。IMSA GT選手権、BPRグローバルGTシリーズ、FIA GT選手権、アメリカンルマンシリーズなど、世界中の主要なレースシリーズに参戦し、数々の優勝、そしてシリーズチャンピオンを獲得しました。

特にオレカが運営するワークスチームは、FIA GT選手権で圧倒的な強さを発揮。1997年、1998年、1999年と3度のチャンピオンシップを獲得しました。ル・マン24時間レースでもLMGT2クラスで優勝を飾り、ニュルブルクリンク24時間レースでも総合優勝を果たすなど、その実力は折り紙付きでした。

2000年にはデイトナ24時間レースで総合優勝を達成。アメリカンルマンシリーズでも複数回チャンピオンシップを獲得しました。2001年、クライスラーはファクトリー活動を終了しましたが、プライベーターによる参戦はその後も続き、FIA GT選手権などで活躍を続けました。

後継車の誕生と進化：新たなステージへ

クライスラーは2001年にファクトリー活動を終了した後、カスタマー向けにバイパー・コンペティション・クーペを販売。FIA GT3規定に適合したこのマシンは、様々なシリーズで使用され、多くのプライベートチームが活躍しました。

2012年には、第3世代バイパーをベースとしたSRTバイパーGTS-Rが誕生。アメリカンルマンシリーズのLM GTEクラスに参戦し、2014年にはユナイテッドスポーツカー選手権でドライバーズ、チームのダブルタイトルを獲得しました。その後も、FIA GT3規定に適合したSRTバイパーGT3-Rがリリースされ、プライベートチームを中心に世界中で活躍を続けています。

ダッジ・バイパー GTS-Rは、アメリカンマッスルカーの伝統とヨーロッパの高度なレーシングテクノロジーを融合させた、まさに伝説的なレーシングマシンと言えるでしょう。その輝かしい戦績は、モータースポーツ史に永遠に刻み込まれることでしょう。

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