ダルムシュタットの聖母

『ダルムシュタットの聖母』

概要

『ダルムシュタットの聖母』は、ルネサンス期の著名な画家ハンス・ホルバインが1526年から1528年の間に制作した、油彩による作品です。この絵画は、聖母マリアとその幼子イエス・キリストを中心に、ドイツのバーゼル市長ヤコプ・マイヤー・ツム・ハーゼンとその家族が描かれています。ホルバインの最後の宗教画の大作として知られ、その写実性と個々の表現が高く評価されています。

作品の詳細

絵画では、聖母マリアが円形の壁龕に立ち、幼いイエスを抱いています。聖母の周囲には、マイヤー家族が描かれており、右側には彼の最初の妻マクダレーン・バールが横顔で、手前には後妻のドロテア、さらに一番前には跪いている娘のアナがいます。さらに、左側には少年と赤ん坊が描かれており、これらの人物はマイヤーの亡くなった息子たちとされています。ホルバイン特有の写実的な表現が各人物に見受けられ、特に衣服や表情、空間感覚が豊かに描写されています。

聖母マリアのモデルとされるのは、ホルバインの愛人であるマクダレーナ・オッフェンブルクです。絵の中で聖母が被る王冠は、聖母を「天の女王」として示しており、神の保護を求める寄進者であるマイヤーの願いが込められています。この作品は宗教改革に対する市長のカトリック信仰を反映しており、聖母と同じ大きさで描かれたマイヤーの姿は、その信念の表れです。

技術的特徴

『ダルムシュタットの聖母』は、ドイツ絵画とイタリア絵画の特徴を兼ね備えています。冷静な写実主義や緻密な線はドイツに根ざしていますが、左右対称の構図、古典的なモティーフ、聖母の柔らかな表情はイタリアのルネサンスを思わせます。ファニー・モイルの研究によると、本作はアンドレア・マンテーニャの『勝利の聖母』から影響を受けており、両者の遠近法的なアプローチには共通点が多いそうです。

また、絵中の2人の男の子の姿は、ラファエロ的なピラミッド型に安定しており、髪型や顔の柔らかさはレオナルド・ダ・ヴィンチのスタイルにも通じています。特に幼子イエスの腕を伸ばすポーズは、レオナルドの『岩窟の聖母』を思わせ、その自然なシルエットが見る者の心を捉えます。

収蔵と展示

この絵画のタイトルは、かつてダルムシュタットにあったことに由来します。しかし、2004年から2011年まではフランクフルトのシュテーデル美術館に収蔵されていました。2012年には、シュヴェービッシュ・ハルのヨハニテル教会にて、ヴュルトコレクションの古典的名画の一部として展示されています。

参考文献

『週刊グレート・アーティスト 50　ホルバイン』（中山公男監修）や、各専門書を通じて本作の詳細な解説がなされています。ホルバインの作品は、その技術的な巧妙さと感情表現の深さから、より多くの人々に愛されています。本作は、ルネサンス期の美術史においても重要な位置を占めています。

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