勝利の聖母

アンドレア・マンテーニャ作『勝利の聖母』

アンドレア・マンテーニャが1496年頃に制作した『勝利の聖母』は、初期イタリア・ルネサンスを代表する祭壇画です。キャンバスにテンペラと油彩を用いて描かれたこの作品は、聖母子を中心に、6人の聖人、そして絵画の寄進者であるマントヴァ公フランチェスコ2世・ゴンザーガが描かれています。この絵画は、歴史的な出来事と深い宗教的意味合いが込められており、美術史においても重要な作品とされています。

歴史的背景

1495年、フランス王シャルル8世率いるフランス軍と、マントヴァ公フランチェスコ2世が指揮するイタリア連合軍との間でフォルノーヴォの戦いがありました。この戦いは、第一次イタリア戦争の一部であり、フランス軍のイタリア支配を食い止めようとする国家連合によって戦われました。連合軍は、神聖ローマ帝国、スペイン、ヴェネツィア、ミラノ、教皇領など、多くの国々から構成されていました。戦い自体は連合軍が多くの死傷者を出し、フランス軍を壊滅させるには至りませんでしたが、フランチェスコ2世はこれを「勝利」と宣言しました。

この自称の勝利を記念するため、フランチェスコはマンテーニャに祭壇画の制作を依頼しました。さらに、フランチェスコが不在中に、ユダヤ人の銀行家ダニエーレ・ダ・ノルサがフランチェスコの家を購入し、家の正面にあった聖母マリアの図像を自身の紋章に置き換えたという事件も、この作品の成立に影響を与えています。この行為は反ユダヤ主義的な感情を煽り、ダニエーレの家は破壊されてしまいました。フランチェスコの帰還後、ダニエーレは礼拝堂の建設と、この祭壇画の制作費を支払うことを強制されました。絵画は、ダニエーレの家の跡地に建てられたサンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会に設置されました。

作品の詳細

この祭壇画は、フランチェスコ・ゴンザーガが聖母マリアに感謝を捧げている様子を表しています。聖母マリアは、大理石の象嵌とレリーフで飾られた豪華な玉座に座っています。そのポーズは、レオナルド・ダ・ヴィンチの『岩窟の聖母』の影響を受けているという説もあります。玉座の基部には、「REGINA/CELI LET./ALLELVIA」（天国の女王、喜べ、ハレルヤ）という銘文が刻まれており、台座には「原罪」や『旧約聖書』の物語をテーマにしたレリーフが施されています。玉座の背面には、織物とガラスの真珠で飾られた大きな太陽の円盤があります。

幼子イエス・キリストと聖母マリアは、跪くフランチェスコを見つめ、祝福を与えています。フランチェスコは感謝の笑みを浮かべており、彼の頭上には、聖母の外套の一部が描かれています。これは、戦いの際に聖母が彼を保護したことを象徴しています。フランチェスコの反対側には、洗礼者ヨハネが「神の子羊を見よ、彼は世界の罪を取り除く」と書かれた紙片を持っています。その隣には、フランチェスコの妻イザベラ・デステの守護聖人である聖エリサべトが描かれています。

聖エリサべトは、ユダヤ人女性として表現されています。これは、聖母像を撤去したノルサ家の人々への審判を意味しており、また、聖エリサべトが聖母の聖性を認めた最初の人物であったことに由来すると考えられています。画面両端には、武装した聖ミカエルと聖ロンギヌス（または聖ゲオルギウス）が描かれています。彼らは、豊かに装飾された鎧を身に着けています。その背後には、マントヴァの守護聖人である聖アンデレと、もう一人の武人聖人が描かれています。

これらの聖人たちは、現実離れした大きな背丈で描かれており、場面に荘厳な雰囲気を加えています。背景には、葉、花、果物でできたパーゴラ（北イタリアの絵画に特徴的な花輪）が描かれています。パーゴラの頂上には、聖母とウェヌスのアトリビュートである貝殻があり、真珠、石英、そしてキリストの受難を象徴する赤いサンゴが垂れ下がっています。さらに、オウムはキリストの誕生を暗示しています。

ナポレオンによる略奪とその後

1798年、ナポレオン戦争中にフランス軍によって略奪された絵画の一つとして、『勝利の聖母』はルーヴル美術館に運ばれました。その大きさから輸送が困難であるという理由で、返還されることはありませんでした。今日、この作品はルーヴル美術館の重要なコレクションの一つとして、多くの人々に鑑賞されています。

まとめ

『勝利の聖母』は、マンテーニャの卓越した画力と、ルネサンス期の社会情勢を反映した傑作です。歴史的背景、宗教的意味、そしてマンテーニャの芸術性が融合したこの作品は、美術史における重要な位置を占めています。また、作品に描かれたオウムは、当時のアラブ人との交易があった証拠とされており、様々な観点から興味深い作品と言えるでしょう。

参考文献

• - ヴァンサン・ポマレッド監修・解説『ルーヴル美術館 収蔵絵画のすべて』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年
• - 中山公男・佐々木英也責任編集『NHKルーブル美術館IV ルネサンスの波動』、日本放送出版協会、1985年
• - Ettore Camesasca (2007). “Mantegna”. Pittori del Rinascimento. Florence: Scala.
• - Kuiper, Kathleen, ed (2009). The 100 Most Influential Painters & Sculptors of the Renaissance. Britannica Educational Publishing
• - Mallett, Michael; Shaw, Christine (2012). The Italian Wars 1494–1559. Modern Wars in Perspective. Harlow: Pearson.
• - Santosuosso, Antonio (1994). “Anatomy of Defeat in Renaissance Italy: The Battle of Fornovo in 1495”. The International History Review

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