チェチェン・ロシア紛争

チェチェン紛争：歴史と現状

チェチェン紛争は、ロシア（旧ソ連）政府とチェチェン勢力との間で数世紀にわたって繰り広げられてきた複雑な紛争です。その根源は18世紀にまで遡り、ロシア帝国の拡大政策とチェチェン人の抵抗が絡み合ってきました。ソビエト連邦の崩壊後、チェチェンは独立を宣言しましたが、ロシアとの間で二度にわたる大規模な武力紛争が勃発しました。その後も、反乱やテロが断続的に発生し、現在も紛争は完全には終結していません。

紛争の起源

北コーカサス地域は、歴史的にロシアと中東を結ぶ交易路として重要であり、様々な勢力が支配を争ってきました。ロシアがこの地域に関与するようになったのは、16世紀にイワン雷帝がカザンとアストラハンのハン国を征服したことがきっかけです。その後、ロシアはカバルダのテムリュクやチェチェンのシーク・オコツキーなどの地元の有力者と同盟を結び、影響力を拡大しようとしました。シーク・オコツキーは、ロシアのコサック兵とチェチェン兵を組み合わせた軍隊を率い、反イラン・反オスマンの軍事行動を頻繁に行いました。

しかし、ロシアの勢力拡大は、チェチェン人の不信感を招きました。ロシアの砦がチェチェン人が所有する牧草地に建設されたためです。スルタン・ムートという指導者が現れ、チェチェン人やクムク人とともにロシア軍と戦いましたが、後にロシアに寝返りました。これによってチェチェン人の間に内紛が起こり、対立が激化していきました。18世紀後半には、ロシアがオスマン帝国からオセチアの支配権を獲得し、グルジア軍道の建設を開始したことが、チェチェン人のさらなる反発を招きました。

ロシア帝国との対立

1785年、チェチェンのイマームであるシェイク・マンスールは、イスラムの下での結束を説き、ロシアへの抵抗を呼びかけました。この行動はロシアを刺激し、最初のチェチェン-ロシア戦争が始まりました。マンスールはゲリラ戦術を駆使してロシア軍を苦しめましたが、1791年に捕らえられ、1794年に亡くなりました。その後も、チェチェン人の抵抗は続き、19世紀にはコーカサス戦争が勃発しました。

1817年、ロシアはアレクセイ・エルモロフ将軍を派遣し、北コーカサスの征服を開始しました。エルモロフの戦術は残虐で、経済封鎖、連帯責任、強制移住などを実行しましたが、チェチェン人の社会と文化に対するロシアの影響力を終わらせることができず、むしろチェチェン人の間でロシアに対する敵意を増大させました。1828年、ムリード運動が起こり、アヴァール人のシャミルがイスラムの下で北東コーカサスを統一し、ロシアに対する「ジハード」を宣言しました。1845年にはシャミルの軍隊がロシア軍を破るなど、抵抗は激化しましたが、1859年にシャミルが捕らえられ、コーカサス戦争は終結しました。しかし、チェチェンとダゲスタンの間には、シャミルの降伏を裏切りとみなす対立も生まれました。

ソビエト時代

ロシア革命後、北カフカースには北カフカース山岳共和国が成立しましたが、1921年にソビエト軍によって制圧されました。ソビエト政府は自治を約束しましたが、1924年に解体され、チェチェン・イングーシ自治ソビエト社会主義共和国が1934年に設立されました。1930年代には、集団化政策によってチェチェン人とソビエト政府の間に対立が起こり、蜂起も発生しました。

第二次世界大戦中、ソ連政府はチェチェン人をドイツ軍に協力したという疑いをかけ、1944年に約50万人のチェチェン人とイングーシ人を中央アジアに強制移住させました。この強制移住で、多くの人々が凍死や飢餓で亡くなりました。また、カイバク虐殺と呼ばれる、多くの子供や高齢者が納屋に閉じ込められ、生きたまま焼かれた事件も起きました。2004年の欧州議会決議では、この強制移住はジェノサイドであったと認定されています。

1957年、チェチェン人は故郷に戻ることが許可され、チェチェン・イングーシ自治ソビエト社会主義共和国が再建されました。しかし、民族間の対立は続き、1958年にはロシア人とイングーシ人の間で争いが起き、大規模な暴動に発展しました。民族紛争は1960年代まで続き、1990年のソ連崩壊まで、民族間の緊張がくすぶっていました。

ソ連崩壊後の時代

1991年、チェチェンはチェチェン・イチケリア共和国として独立を宣言しました。しかし、この独立宣言はロシア政府に認められず、1994年に第一次チェチェン戦争が勃発しました。激しい戦闘の後、1996年にロシア軍は撤退しましたが、1999年に第二次チェチェン戦争が始まりました。この戦争では、グロズヌイが大規模に破壊され、多くの死傷者が出ました。ロシア軍は2000年2月にグロズヌイを制圧し、戦争は公式に終結しましたが、その後も反乱とテロが続きました。

現在の状況

2017年、紛争は公式には終結したと宣言されましたが、現在もチェチェンでは反乱やテロが断続的に発生しています。チェチェンは現在、ロシアに任命されたラムザン・カディロフの支配下にあります。カディロフは、石油資源によって経済的な安定をもたらしましたが、報道の自由を制限し、人権を侵害していると批判されています。また、チェチェン紛争はロシア国外にも波及しており、シリア内戦やウクライナ紛争などでも、チェチェン人の戦闘員が関与しています。

死傷者

チェチェン紛争による死傷者の正確な数は不明ですが、少なくとも6万人が殺害されたとされています。中には、15万人以上が犠牲になったとする情報もあります。この紛争は、チェチェン社会に大きな傷跡を残し、現在もその影響は続いています。

まとめ

チェチェン紛争は、ロシアとチェチェンの間で数世紀にわたって繰り広げられてきた複雑な紛争であり、その背景には、民族、宗教、政治、経済など、様々な要因が絡み合っています。ソ連崩壊後の独立運動、二度にわたる大規模な武力紛争、そして現在まで続く反乱と、紛争の歴史は、チェチェンとロシアの根深い対立を示しています。この紛争は、チェチェン社会に多大な犠牲をもたらし、現在も紛争の終結は見通せない状況です。

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