チェロ協奏曲 (シューマン)

ロベルト・シューマン：チェロ協奏曲 イ短調 作品129

ロベルト・シューマンが1850年に完成させたチェロ協奏曲イ短調作品129は、同時代の作曲家によるチェロ協奏曲がそれほど多くない中で、特に重要な位置を占める作品です。シューマンが生涯に手がけた協奏曲は、このチェロ協奏曲のほか、広く知られるピアノ協奏曲、そして遺作となったヴァイオリン協奏曲のわずか3曲に留まります。

この協奏曲の際立った特徴の一つは、一般的な多楽章形式の協奏曲とは異なり、全3楽章が連続して演奏されることです。このような構成上の工夫は、ロマン派の協奏曲としては斬新であり、作品に特別な流れと統一感を与えています。そのため、ロマン派を代表するチェロ協奏曲の一つとして、今日でも頻繁にコンサートで取り上げられ、録音も多数存在します。

作品の楽譜は1854年に出版されましたが、残念ながら作曲家シューマンの存命中に公開の場で演奏されることはありませんでした。世界初演は、シューマンの死から4年後の1860年4月23日、ドイツのオルデンブルクにて行われました。この記念すべき初演では、チェリストのルートヴィヒ・エーベルトが独奏を務めました。同年6月9日には、シューマンの生誕50年を記念する催しでも演奏されましたが、この時はピアノ伴奏によるものでした。日本での初演は比較的遅く、1928年10月14日に、指揮：近衛秀麿、チェロ独奏：K・シャピロ、管弦楽：新交響楽団（現在のNHK交響楽団の前身）によって実現しています。

演奏に要する時間は概ね23分程度です。楽器編成は、独奏チェロに加えて、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペットがそれぞれ2、ティンパニ1対、そして通常の弦五部（ヴァイオリン2パート、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）という規模です。

楽曲は以下の3つの部分から構成されますが、前述の通り切れ目なく続けて演奏されます。

第1楽章：Nicht zu schnell （速すぎないように）
イ短調、ソナタ形式。短い管弦楽の序奏に続いて、独奏チェロが主要な主題を歌い上げます。この主題はタイを効果的に使用し、複雑なリズムの中に流れるような旋律美を備えています。また、イ短調の中にしばしば嬰ニ音が現れるなど、マジャール音階の影響も見られます。
第2楽章：Langsam （遅く）
ヘ長調。束の間の安らぎを与える穏やかな中間楽章です。チェロの美しい旋律が静かに奏でられます。
* 第3楽章：Sehr lebhaft （とても生き生きと）
イ短調、ソナタ形式。管弦楽と独奏チェロが活発な対話（掛け合い）を繰り広げながら主題を展開します。終結部では同主長調であるイ長調に転じ、華やかに曲を締めくくります。この楽章には、管弦楽の伴奏が付いた独特なカデンツァが用意されています。チェロパートは全体を通して高音域が多く用いられ、重音も頻繁に現れるため、演奏には高度な技術が要求される難曲としても知られています。

ショスタコーヴィチによる編曲版

ロシアの作曲家ドミートリイ・ショスタコーヴィチは、1963年にこのシューマンのチェロ協奏曲に対し、オーケストレーションの変更を伴う編曲を施しました。ショスタコーヴィチはこの編曲版に、自身の創作を示すものとして独自の作品番号「作品125」を与えています。この編曲版は、高名なチェリストであるムスティスラフ・ロストロポーヴィチが独奏を務め、ボリス・ハイキン指揮ソヴィエト国立交響楽団によって初演されました。商業録音としても、フョードル・ルザーノフ（チェロ独奏）、ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮ソヴィエト連邦国立文化省交響楽団による演奏などがリリースされています。

シューマン自身によるヴァイオリン協奏曲版

シューマン自身が1850年に、このチェロ協奏曲の独奏チェロパートをヴァイオリン用に編曲した版が存在します。これは「ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品129」として知られていますが、チェロ原典版ほど頻繁に演奏される機会はありません。それでも、いくつかの興味深い録音が発売されています。例えば、サシュコ・ガヴリーロフ、フィリップ・グラファン、ヨーン・ストルゴード、バイバ・スクリデ、ウルフ・ヴァリーン、レナ・ノイダウアーといったヴァイオリニストによる演奏が挙げられます。さらに、ショスタコーヴィチ編曲版の管弦楽パートを、このヴァイオリン版の独奏パートと組み合わせた異版も存在し、ギドン・クレーメル（ヴァイオリン）と小澤征爾指揮ボストン交響楽団による録音が知られています。

外部リンクとして、国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）にて、このチェロ協奏曲イ短調の楽譜を入手することが可能です。

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