チェロ協奏曲第1番 (ショスタコーヴィチ)

チェロ協奏曲第1番 変ホ長調 作品107

ドミートリイ・ショスタコーヴィチによって1959年に生み出された「チェロ協奏曲第1番 変ホ長調 作品107」は、彼の管弦楽作品の中でも特に広く知られ、演奏機会の多い重要な作品の一つです。この協奏曲は、偉大なチェリストであるムスティスラフ・ロストロポーヴィチに献呈されました。

作曲の背景

この作品の創作は、ソビエトの作曲家セルゲイ・プロコフィエフが完成させた『交響的協奏曲』を聴いたことから大きなインスピレーションを得たと言われています。ショスタコーヴィチ自身が当時の『ソヴィエト』新聞のインタビューで語ったところによれば、プロコフィエフのこの作品に強い関心を抱き、チェロ協奏曲というジャンルで自身の力量を試したいという衝動に駆られたことが、本作の構想につながったとのことです。

作曲は1959年の春に開始され、比較的早いペースで進められました。夏の初旬には、既に第1楽章が完成していたといいます。当初、ショスタコーヴィチは3つの楽章で構成する予定でしたが、創作の過程で形式が変化し、最終的には4楽章構成として完成させました。これは、第3楽章として独奏チェロのための長大なカデンツァを独立させたことによるものです。

初演

この協奏曲は、公式な初演に先立ち、1959年9月21日にモスクワの作曲家同盟の家で試演が行われました。この際は、ショスタコーヴィチ自身がピアノ伴奏用に編曲した版が用いられたと記録されています。

そして、世界初演は同年10月4日、レニングラード（現サンクトペテルブルク）のフィルハーモニー大ホールにて行われました。この歴史的な演奏では、作品を献呈されたムスティスラフ・ロストロポーヴィチが独奏チェロを務め、エフゲニー・ムラヴィンスキーがレニングラード・フィルハーモニー交響楽団を指揮しました。この顔ぶれは、当時のソビエト音楽界における最高峰の組み合わせであり、初演は大成功を収めたと言われています。

編成

本作品は、独奏チェロと管弦楽のために書かれています。その中でも特に目を引くのは、管楽器の編成です。金管楽器がホルン1本のみという、一般的なオーケストラの編成からするとやや変則的な構成をとっています。この1本のホルンは、単なる管弦楽の一部としてではなく、独奏チェロと並んで重要なソロ楽器として扱われ、印象的なパッセージを数多く担当します。

その他の楽器編成は以下の通りです。

独奏チェロ
フルート 2（うち1本はピッコロに持ち替え）
オーボエ 2
クラリネット 2（B♭管指定）
ファゴット 2（うち1本はコントラファゴットに持ち替え）
ホルン 1（F管指定）
ティンパニ
チェレスタ
* 弦五部

楽曲構成

全4楽章で構成されており、全体の演奏時間は約28分です。各楽章は切れ目なく（アタッカで）続けて演奏される場合が多いです。

1. 第1楽章 アレグレット
自由な形式によるソナタ形式が用いられています。冒頭から現れる、ショスタコーヴィチ特有のリズムと音程による短い動機は、この作品全体を特徴づけるライトモティーフとして機能しており、後の楽章にも繰り返し現れます。

2. 第2楽章 モデラート
対照的に、叙情的な性格を持つ緩徐楽章です。冒頭は9小節にわたる弦楽合奏が弱音（ピアニッシモ）で静かに奏でられます。その後、ホルンが非常に印象的で美しい旋律を静かに歌い始め、楽章の中心をなします。

3. 第3楽章 カデンツァ
第2楽章の最後に続いてすぐに（アタッカで）演奏されます。この楽章は独奏チェロのみによる長大なカデンツァであり、技術的に非常に高度な内容を含んでいます。第2楽章の中間部で提示されたモティーフが変形され、発展させられる形で構成されており、これまでの楽章の要素が引用されながら、チェロの多様な可能性が追求されます。

4. 第4楽章 アレグロ・コン・モート
カデンツァから再びアタッカで突入します。木管楽器による下降するグリッサンドが合図となり、弦楽器が刻む推進力のあるリズムに乗って、独奏チェロが主題を力強く提示します。この主題はしなやかでありながら内なる緊張感を秘めていますが、伴奏の軽快なリズムと組み合わさることで、第1楽章の持つ行進曲風のキャラクターを思い起こさせます。この楽章では、かつてヨシフ・スターリンが愛唱したといわれるグルジア民謡『スリコ』の旋律が引用されるなど、興味深い要素が含まれています。また、独奏チェロとティンパニ、そして独奏ホルンとの間の掛け合いは、彼の『ピアノ協奏曲第1番 ハ短調』（作品35）におけるピアノ、トランペット、弦楽器の掛け合いを彷彿とさせる箇所もあり、聴きどころに富んでいます。

このチェロ協奏曲第1番は、ショスタコーヴィチ円熟期の作品として、彼の個性的かつ力強い音楽語法が凝縮されており、チェロとオーケストラの対話、そして独奏楽器としてのチェロの表現力が最大限に引き出された傑作といえます。

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