チシマザサ

チシマザサ（千島笹）

チシマザサ（学名: Sasa kurilensis）は、イネ科タケ亜科ササ属に分類される大型のササの一種です。寒冷な高山地帯に生育し、ササ類の中では最も北に分布することで知られています。タケノコはアクが少なく、食用として重宝されています。

別名

チシマザサは、その形態や地域によって多様な別名を持ちます。稈の基部が弓状に曲がっていることから、山菜名としてはネマガリダケ（根曲竹、根曲がり竹）の名で広く知られています。その他、エチゴザサ、ガッサンダケ、クマイザサ、クマダケ、ジダケ（地竹）、ササダケ、チゴタケ、ヤマタケなど、地域ごとの呼び名が存在します。

分布と生育環境

チシマザサは、ササの仲間としては最も北に分布し、その生育範囲は広いです。具体的には、朝鮮半島、日本の北海道・本州（東北地方・関東地方北部・長野県・鳥取県大山以北の日本海側）、千島列島南部、樺太（サハリン島）に分布しています。山地の林下に群生し、特に日本海側ではブナ林内に大きな群落を形成します。標高1000メートル前後の山地では、斜面を埋め尽くすほどの大群落を形成することも珍しくありません。

形態と生態

チシマザサは、5月から6月にかけて地下茎から新芽（タケノコ）を出し始めます。タケノコは細長く、皮は淡い紫赤色をしています。横向きに出てから弓なりに伸び上がるのが特徴です。

稈（かん）は基部が湾曲して斜めに立ち上がり、高さは1 - 3メートル、直径は1 - 2センチメートルに達します。豪雪地帯では雪の重みで根元が曲がると言われています。節が多く、全体に毛はありません。稈の先端部では、一つの節から一本ずつ密に枝分かれし、その先に数枚の葉がつきます。葉は長さ10 - 20センチメートルで、表面は緑色でつやがあり、裏面は無毛です。

花は穂状で、開花は非常に稀で、約60年に一度程度です。開花時には群落全体が一斉に咲き、結実後には枯死します。

モウソウチクが全国的に普及する以前は、チシマザサは日本を代表する竹・笹類の一つでした。

下位分類

チシマザサには、変種を含む多様な品種が存在します。

キアケボノネマガリ (f. kiakebono)：葉の先端が黄色の曙状になります。
ギンタイチシマ (f. albostriata)：
キンタイチシマ (f. aureostriata)：
キンメイチシマ (f. kimmei)：稈が金明型（黄地に緑の縦筋）のタカラネマガリです。
シモフリネマガリ (f. Simofuri)：葉に微小白点が霜降り状に散在します。
タカラネマガリ (f. takara)：稈や葉に黄緑条斑を持ちます。
チャボコンシマチシマ (f. chabokonshima)：矮性のキンメイチシマです。
チャボマキバ (f. chabomakiba)：矮性のマキバネマガリです。
チャボシモフリチシマ (f. chaboshimofuri)：矮性のシモフリネマガリです。
ノチザエキフネマガリ (f. notizaekifu)：
マキバネマガリ (f. makiba)：葉がねじれます。
ミイロチシマ (f. tricolor)：
エゾネマガリ (var. gigantea)：
ナガバネマガリダケ (var. uchidae)：

利用

チシマザサは、多岐にわたる用途で利用されてきました。稈は農作物の支柱や竹細工の材料として使われます。特にタケノコは重要な食用資源であり、東北地方では春の味覚として親しまれています。

食用

チシマザサのタケノコは5 - 6月頃に収穫され、先端部分が食用とされます。アクが少ないため、新鮮なものは灰汁抜きなしで味噌汁や鍋物、煮物、天ぷらなどに利用できます。皮付きのまま焼いて醤油や味噌をつけて食べるのも一般的です。大量に収穫した場合は、米のとぎ汁で茹でて保存します。茹でたタケノコはおひたし、あんかけ、田楽、和え物、卵とじ、煮物、タケノコご飯など、様々な料理に活用できます。

北海道や富山県では、おでんの具材としても親しまれています。富山県では「すすたけ」と呼ばれ、富山おでんの定番具材となっています。

東北地方では、ネマガリダケとサケの水煮缶を一緒に煮物にするのが一般的です。長野県北信地方や新潟県上越地方では、サバの水煮缶と共に味噌汁にして食べる習慣があります。青森県津軽地方では、身欠きニシンとワカメを使った味噌汁として親しまれています。

道具の素材

かつては豪雪地帯で、チシマザサを用いてかんじきや魚籠（びく）、籠などの生活用品が作られていました。これらの細工物は堅牢で弾力性に富み、現在でも愛好者がいます。

アイヌ民族は、チシマザサを「トㇷ゚」と呼び、鏃の素材として利用していました。トリカブトの毒を塗った鏃を仕掛け弓に仕掛け、ヒグマなどの大型獣を狩猟していました。また、アイヌ音楽の楽器であるムックリ（口琴）も、かつてはチシマザサで作られていました（現在では竹が主流）。

薬用

チシマザサの葉には、薬用効果も期待されています。春に採取した新鮮な葉を細かく裁断し、水を加えてミキサーで青汁を作り、胃炎の緩和を目的として服用する民間療法があります。葉に含まれる葉緑素、ビタミンC・K・B1・B2、カルシウムなどが、血液のアルカリ性化や胃炎に対する効果をもたらすとされています。また、ササの葉に含まれるサンソッコウ酸には殺菌・防腐作用があり、食品を包む用途にも利用されます。

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