チベタン・マスティフ

チベタン・マスティフ：チベット高原原産の希少な超大型犬

チベタン・マスティフは、チベット高原を原産とする超大型犬であり、その名の通り「チベット犬」とも呼ばれる希少種です。中国では「藏獒（Zàng áo）」または「西藏獒犬（Xīzàng áoquàn）」と呼ばれ、「東方神犬」という異名も持ちます。チベット語ではདོ་ཁྱི།（ドーキー）と呼ばれています。

特徴

体高は約66cm、体重は64～82kgにもなる大型犬で、主人に対する忠誠心が非常に強く、外敵に対しては勇敢に立ち向かいます。そのため、番犬、護衛犬、猟犬として優れた能力を発揮します。

外見上の特徴として、首周りの豊富な毛並みによって「獅子型」と「虎型」に分けられます。「獅子型」はさらに毛の長い「大獅子頭型」と短い「小獅子頭型」に分類されます。毛色は主に黒色、赤毛、金黒、灰色、白色、黄色などがあり、尾の毛は長く巻いているのが特徴で、その形状から中国では菊の花に例えられています。

大型犬特有の疾患として、股関節形成不全になりやすい傾向があります。

歴史

チベタン・マスティフは古くからチベット高原の遊牧民によって、牧羊犬や番犬として飼育されてきました。世界の大型犬、特にモロシア犬（モロサス・タイプ）の原種の一つと考えられています。

チンギス・ハーンは、3万匹ものチベタン・マスティフ軍団を率いて西征したという伝説があります。マルコ・ポーロの『東方見聞録』には、「ロバのように高く、ライオンのように力強い声で、凶暴で大胆」な生物が記述されており、これはチベタン・マスティフを指していると考えられています。アレクサンドロス大王によってギリシャへ、さらにローマへと伝えられ、ヨーロッパのマスティフの祖先になったとも言われています。

19世紀初頭にはチベットでほとんど絶滅しかけましたが、イギリスではジョージ4世が2頭を所有し、ヴィクトリア女王にも献上されました。中国では国家第二類保護動物に指定されており、2006年には中国公安部が警察犬の輸入依存対策としてチベタン・マスティフの採用を発表しました。

現状

2010年頃から中国で人気が爆発し、1匹あたり10万元（約130万円）から1000万元（約1億6000万円）という高額で取引されるようになりました。特に首周りの毛がライオンのように見える「大獅子頭型」が人気を集め、2014年には史上最高額の1200万元（約2億円）で取引され、世界一高価な犬として注目されました。北京周辺には多くの飼育場が存在すると言われていました。

しかし、2013年頃から価格が暴落し、躾の失敗による事故の多発、富裕層の没落などが原因で人気は失墜。2016年には数百元でも買い手がつかない状況にまで落ち込みました。

2013年8月には、中国・河南省漯河市の人民公園内の動物園で、チベタン・マスティフをライオンと偽って展示していた事件が発覚し、話題となりました。

参考文献

韓蒙燕、劉瀟『藏獒』、中国林業出版社、2007年、北京

関連項目

チベタン・キー・アプソ
モンゴリアン・フォアアイド・ドッグ
チベット犬物語 〜金色のドージェ〜
タルロ - 映画の中でチベット犬ブームの描写があり犬泥棒や高額で買い取るブローカー等も描かれる。

外部リンク

藏獒ネット（中国語）

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