チャガン (タングート部)

チャガン（察罕）とは：モンゴル帝国に仕えたタングート人将軍の生涯

チャガン（? - 1255年）は、西夏国出身のタングート人で、モンゴル帝国に仕えた将軍の一人です。漢文史料では察罕、ペルシア語史料ではチャガン・ノヤンと記されています。彼は幼少の頃にチンギス・カンに見出され、その才能を開花させ、数々の戦で功績を挙げました。

生い立ちとチンギス・カンとの出会い

チャガンの初名は益徳といい、父は西夏国に仕える人物でした。幼い頃から武勇に優れており、チンギス・カンが狩猟に出た際に牧羊しているチャガンを偶然見出します。その時の応対に感心したチンギス・カンは、チャガンを連れて帰り内廷で給仕させることにしました。

『集史』によると、チャガンがチンギス・カンに連れ出されたのは11歳の時で、チンギス・カンはチャガンを子として養育し、「第五子」と呼んだと伝えられています。

軍人としての活躍

成長したチャガンはコンギラト部出身の女性を娶り、チンギス・カンの征服戦争に参加するようになります。1211年に始まった金朝への侵攻では、野狐嶺を守る金軍の偵察をチンギス・カンに命じられ、金軍の軽挙妄動する様を見て「金軍は恐れるに足らず」と報告しました。これを受けてチンギス・カンはチャガンを先鋒として進ませ、遂に金軍を破りました（野狐嶺の戦い）。この功績により、チャガンは「御帳前首千戸」の指揮を任せられます。

「御帳前首千戸」は、チンギス・カン直属の親衛隊に相当し、宮殿の夜間警護を主任務としつつ、兵器の配分や裁判といった宮廷の諸事にも携わりました。チンギス・カンの高官であっても、チャガンに無闇な要求をすることはなかったと言われています。

西夏遠征とオゴデイ・カアンの時代

チンギス・カン最後の遠征となった西夏遠征において、西夏出身のチャガンはモンゴル軍の主力として活躍しました。粛州を攻略し、甘州に至ると、チャガンは自らの父と弟が城を守っていることを知ります。降伏を勧める使者を派遣しますが、拒否されたため、モンゴル軍は力攻めによって城を攻略しました。攻略後、チンギス・カンは城民を皆殺しにしようとしましたが、チャガンは民に罪はないと諫め、36人の反抗者に罪を限定するよう進言しました。

続いて霊州に侵攻し、西夏国より派遣された10万の援軍を破り、モンゴル軍は遂に西夏国の首都である興慶を包囲しました。しかし、興慶の守りは堅く、チンギス・カンはチャガンを派遣してモンゴルへの降伏を勧めましたが、西夏国の降伏を巡る議論が定まらない内にチンギス・カンは死去しました。諸将は西夏国主を捕らえて殺し、城民を皆殺しにすべしと論じましたが、チャガンは力を尽くしてこれを諫め、西夏国の遺民を助けたと言われています。

オゴデイ・カアンが即位すると、チャガンは河南に残存する金朝への遠征に従軍し、これ以後華北方面に駐屯する軍の指揮官として活躍するようになりました。南宋遠征では、クチュの急死後、クウン・ブカとともに南宋遠征軍を統轄し、棗陽や光化軍を攻略しました。1238年には馬歩軍都元帥の称号を授かり、諸軍を率いて天長軍や滁州・寿州・泗州を攻略しました。

モンケ・カアンの時代と死後

1251年、モンケ・カアンが即位すると、チャガンは召見され、金・珠衣・金綺といった下賜品に加え、食邑及び遊牧地を与えられました。1255年にチャガンは亡くなり、河南王に追封され、武宣と諡されました。チャガンには10人の子供がおり、長男のムカリが後を継ぎました。

チャガンは、モンゴル帝国の拡大に貢献しただけでなく、征服地の民衆を救済することにも尽力した人物として、歴史に名を残しています。

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