チャック・ペドル

チャールズ・イングラハム・ペドル

チャールズ・イングラハム・ペドル（Charles Ingerham Peddle、1937年11月25日 - 2019年12月15日）は、アメリカ合衆国の傑出した電気技術者であり、パーソナルコンピュータ時代の幕開けに決定的な役割を果たした人物の一人として知られています。特に、モステクノロジー社で開発した革新的なマイクロプロセッサである6502、そしてそれを搭載したKIM-1シングルボードコンピュータやコモドールPETパーソナルコンピュータの主要設計者として、その名を歴史に刻んでいます。

メイン州バンゴーに生まれたペドルは、若い頃から技術への関心を示し、高校時代にはラジオ放送局で実務経験を積みました。1955年には米国海兵隊に入隊し、その後メイン大学で工学物理学の学士号を取得しました。卒業後、彼はゼネラル・エレクトリック社に勤務し、初期のタイムシェアリングシステムの開発に携わるなど、キャリアの基盤を築いていきました。

1973年、ペドルはモトローラ社に移籍し、当時開発が進められていた6800プロセッサのプロジェクトに参加しました。この経験を通じて、彼は当時主流だった高価なマイクロプロセッサとは別に、より広範な市場、特に趣味家や中小企業向けの低価格なコンピュータに適合する、全く新しいカテゴリーのマイクロプロセッサの必要性を痛感します。彼は300ドル程度で販売されていた6800を補完する形で、大幅なコスト削減を実現した設計コンセプトを社内で提唱しました。しかし、モトローラの経営陣はこの低価格戦略に興味を示さず、彼の提案するプロジェクトは承認されませんでした。

モトローラでの構想が実現できなかったペドルは、自身のアイデアを形にするため、モステクノロジー社へと活躍の場を移します。ここで彼は、元モトローラの同僚たちと共に、独自のマイクロプロセッサファミリー「650x」の開発を指揮しました。これは、モトローラ6800に対抗することを念頭に置きつつ、徹底的なコストダウンを図った設計でした。そして1975年、このシリーズの中で最も有名なチップである6502が誕生します。当時の競合製品であったインテル8080が比較的高価であったのに対し、6502はわずか25ドルという驚異的な価格で提供されました。これは、高性能ながら圧倒的な低価格を実現した画期的な製品であり、コンピュータ業界に大きな衝撃を与えました。

6502の登場は、多くのコンピュータメーカーに新たな可能性をもたらしました。そのコストパフォーマンスの高さから、後のパーソナルコンピュータ史に名を刻む数々の名機に採用されることになります。具体的には、アップルコンピュータのApple II、コモドール社のCommodore PETやVIC-20、任天堂のファミリーコンピュータ（海外名Nintendo Entertainment System）、アタリ社の8ビットコンピュータ、さらにはアーケードビデオゲーム、Oricコンピュータ、Acorn ComputersのBBC Microなど、枚挙にいとまがありません。6502の設計は、その後の派生チップにおいても互換性が維持されつつ、様々なニーズに対応できるよう改良が加えられました。

1980年、ペドルはコモドール・ビジネス・マシーンズ（CBM）の主要出資者であったクリス・フィッシュと共にモステクノロジーを離れ、新たにシリウス・システム・テクノロジー社を設立しました。この会社で、ペドルはビジネス用途に特化した高性能なパーソナルコンピュータ、Victor 9000の設計を手掛けました。

チャールズ・ペドルは、6502の共同設計者であるビル・メンシュらと共に、パーソナルコンピュータ革命における重要な立役者の一人と見なされています。彼が開発した6502の革新的な技術と、それを低価格で提供するというビジネスモデルは、多くの人々が手軽にコンピュータを手に入れられる時代の到来を加速させました。この功績により、彼は「パーソナルコンピュータの先駆者」として、コンピュータ史において不朽の地位を確立しています。ペドルの死後、長年の協力者であったメンシュは、彼の功績を称える追悼文を寄せています。

彼の先見性と技術力がなければ、今日のパーソナルコンピュータの普及はこれほど急速に進まなかったかもしれません。チャールズ・イングラハム・ペドルの遺した技術的な遺産は、現代のコンピュータ文化の礎となっています。

（注：参考文献および外部リンクは、本記事の作成にあたり参照したものであり、記事本文には含めていません。）

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