チャンギ

チャンギ：朝鮮半島の伝統的なボードゲーム

チャンギ（장기、將棋）は、朝鮮半島で親しまれている二人対戦型のボードゲームです。韓国将棋、朝鮮将棋とも呼ばれ、中国吉林省では非物質文化遺産に指定されています。起源については諸説ありますが、紀元前の古代インドで生まれたチャトランガが起源という説が有力視されており、シャンチーと多くの共通点を持つ一方、独自のルールも備えています。

歴史：様々な伝来説と発展

チャンギの起源や朝鮮半島への伝来時期については、複数の説が存在します。

漢四郡説: 漢四郡時代に漢族が朝鮮半島に移住し、楚漢戦争を題材とした将棋を持ち込んだという説。朝鮮民族がこれを改良し、現在のチャンギになったとされています。
北夫余起源説: チャンギは北夫余以前から朝鮮半島に存在し、高句麗滅亡後に中国に伝わったという説。しかし、これは定説とはされていません。
インド起源説: 紀元前2世紀頃、インドで生まれたチャトランガが東洋に伝播し、チャンギを経て西洋に伝わりチェスになったという説もあります。また、中国南朝宋時代に高句麗に伝来し、現在の形に変化したとする説も存在します。

しかし、チャトランガの発生時期が6世紀頃、中国への伝来が8世紀頃とされる定説を考慮すると、漢四郡期（紀元前108年～紀元313年）に朝鮮半島に将棋が伝来したとする説には疑問が残ります。

文献記録：史書に残るチャンギ

チャンギに関する最古の記録は、『三国史記』（1145年）にみられます。百済の蓋鹵王と僧の道琳の囲碁対局の記述の中に「博奕」という言葉が登場しますが、これが必ずしもチャンギを指すとは限りません。その後、『筆苑雑記』や『世祖実録』には「象戯」としてチャンギに関する記述があり、『遣閑雑録』で初めて「將棋」の文字が登場します。

『谿谷集』には、チャンギのルール、駒の役割、盤面、勝敗条件などが詳細に記述されています。また、『識小録』や『於于野譚』には、著名なチャンギ棋士も紹介されています。

ルール：基本と特徴

チャンギは、縦9本、横10本の線で区切られた盤上でプレイされます。駒は線の交点に置かれ、各プレイヤーは7種類の駒を16枚ずつ持ちます。

駒の動き: 各駒はそれぞれ固有の動き方を持ちます。先手と後手で駒の名称が異なる場合もあります。
駒取り: 相手の駒を動いた先に取り除き、取った駒は盤面に戻すことができません。
勝敗: 相手の「漢」または「楚」（王）を詰めることで勝利となります。「王手」の場合は「チャン（将）」または「チャングン（将軍）」と宣言します。
パス: 駒を動かさずに手番をパスすることも可能です。双方続けてパスしたら引き分けとなります。
ピッチャングン: 漢と楚が同じ縦線上に並び、間に駒がない状態。これを解消できないと引き分けです。
千日手: 同じ局面が3回出現した場合、引き分けとなります。
駒の消耗: 双方とも相手を詰ませられない状況になった場合も引き分けとなります。

駒：名称、形状、役割

駒は上下が平らな正八角形で、片面に漢字（またはハングル）で書かれています。先手は緑（青）、後手は赤で書かれるのが一般的です。「漢」「楚」が最大で、「士」「兵」「卒」が最小です。北朝鮮では「漢・楚」ではなく「将」と表記されます。

楚・漢: 各陣営の王。宮（クン）の中央に配置され、宮から出ることはできません。
士: 楚・漢と同じ動きで、宮から出ることはできません。
馬: ナイトと同じ動き方をしますが、駒を飛び越えることはできません。
象: 縦横一直線に進み、その後斜めに二マス進みます。駒を飛び越えることはできません。
車: 縦横に何マスでも動けます。宮の中では斜めにも動けます。
包: 縦横に何マスでも動け、宮の中では斜めにも動けますが、必ず他の駒を1つ飛び越えて動かす必要があります。包は包を飛び越えられません。
卒・兵: 前と横に1マス動けます。宮の中では斜め前にも動けます。

初期配置と座標表記

初期配置は、象と馬の配置を入れ替え可能で、先後それぞれ4通り（北朝鮮では5通り）あります。座標表記は、横線を1～9、0で、縦線を1～9で表し、横線と縦線を組み合わせて表記します（例：95）。

対局方式：勝負制と点数制

対局方式は勝負制と点数制があり、公式戦では点数制が用いられます。点数制では、残りの駒の点数が多い方が勝ちとなります。

布陣：2分法と5分法

布陣には2分法（面象布陣と面包布陣）と5分法があります。5分法は李正碩や林済民ら棋士によって確立された5種類の布陣です。

シャンチーとの違い

チャンギとシャンチーは多くの類似点を持つ一方、いくつかの重要な違いも存在します。

駒の名称
河がない
駒の形状（八角形 vs 円形）
駒の大きさ
象と馬の配置の入れ替え可能性
漢・楚の初期配置
漢・楚の移動範囲
ピッチャングン
士の移動範囲
象の動き
卒・兵の動きと昇格
包の動き
パス
* 千日手

競技人口と国際大会

チャンギの競技人口は700万人と推定され、チェス、シャンチー、将棋に次ぐ世界第4位です。韓国には大韓チャンギ協会と大韓チャンギ連盟があり、国際大会も開催されています。

韓国将棋協会東京支部新ローカルルール

東京支部では、兵・卒が敵陣の奥まで到達すると、死んだ駒と入れ替えられるという独自のルールがあります。

チャンギに由来する慣用句

「차포를 떼다」（車と包を取り除く）という慣用句は、重要な駒を失った状態を表します。

参考文献

岡野伸『朝鮮将棋・韓国将棋チャンギ情報集 1』プリンプリント、名古屋、2002年4月

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