チャールズ・ジナー

チャールズ・ジナー（Charles Isaac Ginner, 1878-1952）は、南フランスに生を受けながら、主にイギリスで活躍した影響力のある画家です。特に、20世紀初頭のロンドンにおけるモダニズム美術運動の中で重要な役割を果たし、「カムデン・タウン・グループ」 の中心的なメンバーとして知られています。都市の風景や日常的な光景を、観察に基づいた堅実な写実的なスタイルで描き、自身の芸術観を 「New Realism（新現実主義）」 と称しました。

ジナーは1878年3月3日、南仏の海辺の町カンヌに、イギリス人の両親のもとで誕生しました。彼の父親は医師であり、妹のルビー・ジナー（1886-1978）は後にイギリスでダンスの分野において著名な存在となります。

故郷カンヌで初等教育を終えた後、ジナーは一時エンジニアの事務所で働いていましたが、芸術への強い志を抱き、1899年にパリへ赴いて建築学を学び始めました。当初、画家を志すことには両親の反対がありましたが、1904年についに絵画の道に進む許可を得ます。彼はパリの私立美術学校 アカデミー・ヴィッティ（Académie Vitti） に入学し、アンリ・マルタンやポール・ジェルベーといった指導者から集中的に絵画を学びました。1905年には国立高等美術学校に入学するも、翌年には退学し、アカデミー・ヴィッティに戻って1908年まで研鑽を続けました。

彼のキャリアにおいて大きな転換期となったのは、1909年にロンドンを訪れたことです。当時、ロンドンのモダニズム画家たちが組織していた団体、アライド・アーティスト・アソシエーションの展覧会の展示委員として渡英した際に、彼はロンドンの美術界で活動していた ハロルド・ギルマン（1876-1919）や スペンサー・フレデリック・ゴア（1878-1914）といった画家たちと知り合います。彼らとの交流を通じてロンドンを活動拠点とすることを勧められ、イギリスでの制作活動を開始することを決意しました。

ロンドンに移ったジナーは、ギルマンやゴアが居住していたカムデン・タウン地区に住まいを構えました。この地区は、当時多くの進歩的な芸術家が集まる場所となっており、週末にはジナーを含め、ロバート・ベヴァン、ジョン・ナッシュ、アルバート・ローゼンスタイン、C.R.W. ネヴィンソン、ジェーコブ・エプスタイン、ウォルター・ベイズ、ウォルター・シッカート、そしてリュシアン・ピサロ（印象派の巨匠カミーユ・ピサロの息子）など、様々な分野の芸術家たちが集まり、活発な意見交換や交流が行われていました。

こうした芸術家たちの集まりの中から、1911年に正式に結成されたのが 「カムデン・タウン・グループ」 です。ジナーはこのグループの主要なメンバーとして、その活動に深く関わりました。グループは主にロンドンの都市生活やありふれた日常風景を主題とし、個々の画家は独自のスタイルでそれらを写実的に捉えました。ジナーはカムデン・タウン・グループの展覧会に参加したほか、1913年に組織されたより大規模な 「ロンドン・グループ」 、そして1914年には 「カンバーランド・マーケット・グループ」 の展覧会にも出品しています。

1914年には、雑誌「The New Age」に寄稿し、自身の芸術に対する信条を明確に表明しました。彼はそこで 「New Realism」 という言葉を用い、観察に基づいた堅実で誠実な写実描写こそが重要であると論じました。

第一次世界大戦が勃発すると、ジナーは軍務に服しました。イギリス陸軍の補給部隊に配属された後、情報部門や諜報部隊でも勤務しました。また、戦時中のカナダの戦争記録部門からも依頼を受け、軍需工場などの戦時下の産業風景を描写する機会を得ました。

戦後も画家としての制作活動を精力的に続け、1920年には ニュー・イングリッシュ・アート・クラブ の会員となりました。第二次世界大戦中も、彼は再び公式の戦争画家として指名され、戦時下のロンドンを描き続けました。特に、空襲で被害を受けた建物の様子や、ロンドンの港湾風景などを写実的に記録しています。

ジナーの芸術家としての長年の功績は高く評価され、1942年にはイギリス美術界の権威である ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ の準会員に選ばれました。さらに、1950年にはイギリスへの顕著な貢献を認められ、大英帝国勲章（CBE）を受勲しました。チャールズ・ジナーは1952年1月6日に73歳でその生涯を閉じました。彼の作品は、20世紀初頭のイギリス美術における写実主義の一つの重要な潮流を形成したとして、現在も評価されています。

もう一度検索