チャールズ・バーニー

チャールズ・バーニー（Charles Burney、1726年 4月7日 - 1814年4月12日）は、18世紀から19世紀にかけてイギリスで活躍した多才な音楽家です。オルガン奏者、作曲家としてキャリアを積む傍ら、体系的な音楽史研究の先駆者として知られ、後世に大きな影響を与えました。また、娘の作家フランシス・バーニーをはじめ、探検家の息子ジェームズ、古典学者の息子チャールズ・ジュニアなど、著名な家族を持ったことでも知られています。

生涯と初期の活動

バーニーはシュルーズベリーで、音楽家・画家の父ジェームズ・マクバーニーと母アンの間に生まれました。幼少期は里子に出される経験もしますが、シュルーズベリー校とチェスターのキングス・スクールで教育を受けます。音楽教育は、ブロウの弟子であったE・ベイカーや、異母兄弟のジェームズから手ほどきを受けた後、高名なトマス・アーン博士に師事するためロンドンへ移りました。アーン博士のオペラ『アルフレッド』に楽曲を提供するなど、作曲家としての活動を開始します。また、オルガン奏者としてもセント・ダイオニス・バック教会の職に就き、コーンヒルのパブでのコンサートでチェンバロ奏者としても活躍しました。

健康上の理由から、1751年にはノーフォークのキングズ・リンへ転地し、9年間を過ごします。この地で彼は、後のライフワークとなる普遍的な音楽通史の執筆構想を温めました。健康を回復したバーニーは1760年にロンドンに戻り、音楽活動を再開します。彼のチェンバロ協奏曲は好評を博し、またジャン＝ジャック・ルソーのオペラ『村の占い師』を翻案した『カンニング・マン』をドルリー・レーン劇場で上演するなど、作曲・編曲家としての才能も発揮しました。

家族と社交界

バーニーは二度の結婚を経験しました。最初の妻エスター・スリープとの間には6人の子供をもうけ、チェンバロ奏者のエスター、海軍軍人で探検家のジェームズ、著名な小説家・劇作家のフランセス（ファニー）、スーザン、シャーロット、そして古典学者で聖職者・図書館学者のチャールズ・ジュニアがいます。エスターが1761年に亡くなった後、1767年にはキングズ・リン時代の友人スティーブン・アレンの未亡人エリザベス・アレンと再婚し、リチャード・トーマスと、同じく小説家となった娘サラ・ハリエットが生まれました。

ロンドンに戻ったバーニーと家族は、当時の活発な文化人コミュニティの一員となりました。肖像画家のジョシュア・レイノルズ、文筆家のサミュエル・ジョンソン、劇作家のリチャード・ブリンズリー・シェリダン、作家のエドマンド・バークら、多くの著名な人物と交流を持ちました。これらの交流は、娘フランセスの日記や書簡に鮮やかに記録されており、当時のバーニー家の生活や社交界の様子を知る貴重な資料となっています。娘サラの手紙からは、晩年のバーニーとの複雑な関係が垣間見えます。

音楽史研究の業績

バーニーの最も重要な業績は、音楽史の研究と執筆です。1769年にオックスフォード大学で音楽博士号を取得した彼は、音楽史執筆のために必要な資料を自ら収集することを決意します。1770年にはフランスとイタリアを、1772年にはオランダ、ドイツ、オーストリアを旅しました。これらの旅行で得た豊富な見聞は、『フランス、イタリアの音楽の現状』（1771年）と『ドイツ、オランダ、オーストリアの音楽の現状』（1773年）という二冊の旅行記として出版され、当時のヨーロッパ各地の音楽文化や演奏家、楽器に関する詳細な記録として高い評価を得ました。これらの旅行記は、後の音楽史研究において不可欠な基礎資料と見なされています。特に、近年になって初めてこれらの旅行記の日本語訳が出版されたことは、その重要性を示す出来事と言えるでしょう。

これらの旅行の成果を基に、バーニーは満を持して主著となる『一般音楽史概説』（A General History of Music）の執筆に取りかかります。1776年から1789年にかけて全4巻として刊行されたこの大著は、古代からバーニー自身の時代に至るまでの西洋音楽の歴史を網羅的に記述したものです。当時の音楽史としては画期的な試みであり、一般的には好評をもって迎えられました。しかし、その内容については批判も存在しました。例えば、ドイツの音楽学者フォルケルはバッハに関するバーニーの評価に異論を唱え、スペインのレケーノは古代ギリシャ音楽に関する記述を「混乱している」と非難しました。

その他の活動と晩年

音楽史執筆と並行して、バーニーは様々な活動を行いました。音楽学校設立計画や、神童ウィリアム・クロッチに関する記述、ヘンデル記念演奏会の記録出版などです。晩年には、大規模な百科事典である『リーズ百科事典』において、自然科学・数学分野以外の音楽関連記事をほぼ全て執筆し、その功績に対して多大な報酬を得ました。これらの記事には、彼の以前の著作には見られない当時のロンドンの音楽状況に関する新しい情報が多く含まれています。

1783年には、友人エドマンド・バークの推薦でチェルシー王立病院のオルガン奏者に任命され、亡くなるまでその職を務めました。晩年は年金を受給し、1810年にはフランス研究所の会員に選ばれるなど、晩年まで音楽界・学術界で一定の地位を保ちました。1814年4月12日にチェルシーで死去し、同病院の敷地内に埋葬されました。ウェストミンスター寺院には彼の功績を称える記念碑が建てられています。

作曲作品

バーニーの作曲作品には、オペラ（翻案）、協奏曲、ソナタ、アンセム、歌曲などがあります。代表的なものには、『カンニング・マン』（ルソー翻案）、チェンバロ協奏曲、チェンバロまたはピアノのためのソナタ、オルガン曲集などがあります。

史料と研究

バーニーの死後、娘フランシスによって一部の史料が破棄されたものの、残された日記、書簡、草稿などの論文は、イェール大学やニューヨーク公共図書館、大英図書館など、世界中の機関に分散して所蔵されています。現在、カナダのマギル大学バーニーセンターを中心に、バーニー家の史料の収集・出版が進められており、彼の生涯と業績に関する新たな研究が進んでいます。

チャールズ・バーニーは、18世紀イギリスにおける音楽文化の発展に貢献しただけでなく、近代的な音楽史研究の基礎を築いた人物として、その功績は今なお高く評価されています。

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