トマス・アーン

トマス・オーガスティン・アーン

トマス・オーガスティン・アーン（1710年3月12日 - 1778年3月5日）は、18世紀を代表するイギリスの作曲家です。彼の作品の中で最も知られているのは、イギリスの非公式な国歌ともいえる愛国歌「ルール・ブリタニア」であり、この曲は今日でもBBCプロムスの最終夜などで歌い継がれています。

生涯

アーンはロンドンのコヴェント・ガーデンで、成功した室内装飾業を営む裕福な家庭に生まれました。名門イートン・カレッジで教育を受けましたが、幼い頃から音楽、特にオペラに強い興味を示しました。父トマスは彼に弁護士の道を望んでいましたが、マイケル・フェスティングの下でヴァイオリンを学ぶことだけは許可しました。やがて父は、息子がオーケストラを率いる姿を目にし、音楽家としての道を歩むことを認めるに至りました。

1732年、アーンはジョン・フレデリック・ランプやヘンリー・ケアリーら同時代の音楽家と共に「イギリス・オペラ」と呼ばれる団体を設立しました。彼らは同年3月にランプのオペラ『アメリア』を上演し、この公演ではアーンの妹で後に著名なアルト歌手となるスーザナ・マリア・アーン（後のシバー夫人）が主要な役を歌い成功を収めました。さらに彼らは、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの仮面劇『エイシスとガラテア』を無断で上演し、話題を呼びました。アーン自身も、この「イギリス・オペラ」のために英語によるオペラ作品、例えば『ロザモンド』や『オペラの中のオペラ』などを作曲・上演しています。

私生活では、1737年に声楽家のセシリア・ヤングと結婚しました。セシリアはランプの妻である歌手イザベラ・ヤングの妹であり、これによりアーンとランプは義兄弟の関係となりました。「イギリス・オペラ」の活動は続き、1734年には本拠地をドルリー・レーン劇場へと移しました。1738年に上演されたジョン・ミルトンの詩に基づく仮面劇『コーマス』は特に大きな成功を収め、長きにわたり人々に親しまれる作品となりました。

彼のオペラや仮面劇は次第に高い評価を受けるようになり、英国皇太子フレデリック・ルイスの厚い庇護を得るまでになりました。1740年には、クリヴデンの皇太子邸で仮面劇『パリスの審判』と『アルフレッド』が初演されています。この『アルフレッド』の中に、今日最もよく知られる愛国歌「ルール・ブリタニア」が挿入されていました。ただし、ロンドンでの公の場での初演は1745年になってからのことでした。

1759年には、その功績が認められ、オックスフォード大学より音楽博士の学位を授与されました。

劇場支配人デイヴィッド・ギャリックとの間に確執が生じたため、1760年代になるとアーンはドルリー・レーン劇場の競合であるコヴェント・ガーデン劇場へと活動の場を移し、英語オペラを提供しました。この時期の主要な作品としては、1760年の『トマスとサリー』、そして1762年にイタリアの詩人メタスタージオの有名な台本を英語に翻案し、成功を収めた『アルタセルセ』などがあります。また同年には、既存曲の寄せ集め形式であるパスティッチョ『Love in a Village』も手掛けました。しかし1764年に再びメタスタージオ原作の『オリンピーアデ』を英語で上演した際は、成功には至らなかったようです。ギャリックとの関係は、1769年にストラトフォード＝アポン＝エイヴォンで開催されたシェイクスピア記念祭で協力したことを機に改善し、和解に至ったとされています。

私生活においては複雑な面もあり、1755年には妻セシリアを精神病だと主張して別居しました。この頃には、かつての門人で天才ソプラノ歌手として注目されていたシャーロット・ブレントとの関係が噂されました。しかしブレントは後にヴァイオリニストのトーマス・ピントと結婚しています（著名なピアニスト、ジョージ・フレデリック・ピントは彼らの孫にあたります）。晩年になり、亡くなる直前に妻セシリアと和解したと言われています。

アーンは1778年3月5日に死去し、ロンドンのコヴェント・ガーデンに位置するセント・ポール教会に埋葬されました。妻セシリアとの間には息子マイケル・アーンがおり、彼もまた歌曲作曲家として知られています。

主な作品

ルール・ブリタニア （1740年、仮面劇『アルフレッド』より）
ミツバチが蜜を吸うところで （1746年、シェイクスピア『テンペスト』のための歌曲）
たんぼの中の一軒家* （童謡として知られる旋律。1777年、『乞食オペラ』再演のために作曲された音楽に由来するとされる）

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