チュワン・リークパイ

チュワン・リークパイ（Chuan Leekpai）は、1938年6月28日にタイのトラン県で華人として生まれました。彼は貧しい家庭環境の中、苦学してタマサート大学を卒業し、その後弁護士として活動を開始しました。1969年には、トラン県選出の下院議員として政界入りを果たしました。その後、法務大臣、商務大臣、教育大臣などを歴任し、1992年には民主党の党首に就任しました。

首相としての活躍

1992年、スチンダー政権が民主化運動を武力で鎮圧しようとした「暗黒の5月事件」が発生しました。この事件はプミポン国王の調停によって収束しましたが、その後の総選挙で民主党が躍進し、チュワンは5党連立政権の首相に就任しました。国民は軍人出身ではない文民のチュワンに大きな期待を寄せました。

チュワン政権は、民主主義の育成、所得格差の是正、地方分権の推進、AFTA（ASEAN自由貿易地域）の推進などを政策目標に掲げました。しかし、連立政権内の不協和音や内紛が絶えず、政権運営は困難を極めました。1994年12月には、連立与党の一角であった新希望党が離脱し、少数与党政権となりましたが、国家開発党を取り込むことで危機を乗り切りました。しかし、その後、プーケットでの農地改革をめぐる汚職事件で野党からの批判を浴び、下院を解散することになり、総選挙で敗北し退陣しました。

首相再登板と経済危機への対応

1997年のアジア通貨危機によってチャワリット政権が崩壊すると、チュワンは新たな連立政権を組織し、再び首相に就任しました。彼は経済危機に対応するため、金融政策に精通したターリンを財務大臣に、後に世界貿易機関（WTO）事務局長となるスパチャイを商務大臣に任命し、経済の立て直しに尽力しました。また、異例ではありましたが、チュワン自身が国防大臣を兼任し、スラユット司令官と共に軍備の近代化や軍のリストラを推進しました。

国際通貨基金（IMF）の支援と助言のもと、減税、雇用創出、公共投資、中小企業支援などを内容とする経済政策を打ち出しました。特に不良債権処理を促進するための政策を重点的に行いました。これらの政策は一定の成果を上げましたが、国民からの支持は得られませんでした。2001年の総選挙では、タクシン率いるタイ愛国党に敗北し、チュワンは首相の座を退きました。

首相辞任後

首相辞任後の2001年から2003年まで野党指導者として活動し、2003年に民主党党首を辞任しました。その後は、民主党の最高顧問を務めています。

人物像

チュワンは、首相在任中に借家に住んでいたことなどから、清廉で誠実な人物として国民から人気を集めました。また、プミポン国王からも深く信頼されていたとされています。一方で、首相としては「優柔不断」という批判も受けました。これは、連立政権の運営の難しさや、彼自身が潤沢な資金を持っていなかったことも影響したと見られています。

チュワン・リークパイは、タイの政治史において重要な役割を果たした人物であり、その清廉な人柄と、危機に際してリーダーシップを発揮した姿は、多くの国民に記憶されています。

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