タイの政治

タイの政治体制は、1932年の立憲革命を経て、国王を国家元首とする立憲君主制と議院内閣制を採用しています。しかし、軍の力が強く、クーデターが頻発し、軍政と民政の間を行きつ戻りつする状況が続いています。

基本原則

タイ王政は、「国王」「仏教」「民族」を三位一体の秩序とみなす「ラク・タイ」の原理を重要視しています。国民主権でありつつも、国王が最高権力者として三権に介入する可能性も残されています。憲法では、信仰の自由、言論の自由、出版の自由、集会の自由、結社の自由、政党結成、通信の自由が保障されています。

国王

国王は国家元首であり、神聖不可侵の存在とされています。また、宗教（仏教）の擁護者であり、タイ王国軍の総帥でもあります。現在の国王は、チャクリー王朝10代目のワチラーロンコーン（ラーマ10世）です。国王は、三権に対して規定に基づいた主権を行使できます。過去には、民主化勢力と軍政が衝突した際に、国王が調停を行った例もあります（1973年の血の日曜日事件、1992年の暗黒の5月事件など）。

枢密院

国王の諮問機関として枢密院が存在します。枢密院は、議長1名と18名以下の枢密顧問官で構成され、王族、元首相、退役軍人など、国政に影響力を持つ人物が選ばれます。

行政

行政は、首相と35名以下の国務大臣で構成される内閣によって担われます。大臣は、首相と政党間の交渉によって選ばれ、国王によって任命されます。首相は、下院議員の中から選ばれ、下院の承認を得て、国王が任命します。首相の任期は連続8年に制限されており、国王の助言・承認のもとで下院を解散できます。

立法

立法府は、二院制の国会（รัฐสภา）です。上院に相当する元老院（วุฒิสภา）と、下院に相当する人民代表院（สภาผู้แทนราษฎร）で構成されています。制度は、大英帝国のウェストミンスター・システムを根幹としつつ、明治憲法下日本の帝国議会と類似した制度も取り入れています。

元老院（上院）

元老院は、定数150議席で、各県から1名と首都から1名が選出される民選議員（76議席）と、選考委員会から任命される任命議員（74議席）で構成されています。議員は、40歳以上、大学卒以上、非政党員などの条件を満たす必要があります。2014年のクーデターで上院は解散しましたが、2017年の新憲法で定員が200人に定められました（新憲法施行後5年間は250人）。

人民代表院（下院）

人民代表院は、任期4年で、小選挙区比例代表並立制によって選出されます。小選挙区から375人、比例代表から125人の計500人が選ばれます。下院議長が国会議長、上院議長が国会副議長となります。法案の先議権は上下両院にありますが、本会議が重視される読会制が採用されており、本会議は上下両院合同で行われることもあります。

司法

司法制度は、慣習法に基づいた国内法と、欧米型の法とのミックスです。成人年齢は18歳ですが、結婚や両親の死亡などにより成人することも可能です。裁判所は、憲法裁判所、司法裁判所、行政裁判所、軍事裁判所に分かれています。司法裁判所は、第一審裁判所、控訴裁判所、最高裁判所の三審制を採用しています。裁判官は、司法委員会の承認を経て、国王によって任命されます。

地方行政

タイの国土は、76の県と1つの首都府（バンコク）に分かれています。しかし、行政トップが民選なのはバンコク首都府のみで、他の県の知事は内務省の官僚が派遣される中央集権制となっています。この制度は、19世紀末のチャクリー改革で導入されたものです。

近年の政治情勢

1932年の立憲革命以降、タイの政治は軍の介入が頻繁に行われています。第二次世界大戦後には、文民政権も誕生しましたが、軍事政権が台頭し、クーデターが繰り返されました。1973年の血の日曜日事件や、1991年のスチンダー政権の崩壊など、民主化運動と軍事政権の衝突が繰り返されました。

2006年のタクシン追放クーデター以降は、タクシン派と反タクシン派の対立が激化し、政治が混迷しました。2011年には、タクシンの妹であるインラックが首相に就任しましたが、米の買い取り政策の失敗などにより、2014年のクーデターでプラユット・チャンオチャ率いる軍が政権を奪取しました。

日本との関係

タイは、立憲革命以降、日本の明治憲法を参考に政治体制を構築してきました。そのため、日本とは明治憲法の理念を共有する兄弟国の関係にあると言えます。

参考文献

遠藤聡　「2007年タイ王国憲法の制定過程とその成立」『外国の立法』No.235（2008年3月：季刊版）、国立国会図書館調査及び立法考査局、2008年。

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