チン兄弟同盟

チン兄弟同盟 (Chin Brotherhood: CB)

チン兄弟同盟（CB）は、ミャンマーのチン州に拠点を置く複数の少数民族武装勢力が形成した軍事・政治的な同盟組織です。2023年12月30日に結成されたこの同盟は、チン州およびチン民族コミュニティ内での協力関係を強化することを主な目的としています。CBは、主にチンランド防衛隊（CDF）の複数の派閥によって設立されました。彼らは、同時期に進められていたチンランド憲法、チンランド評議会、およびチンランド国家の設立プロセスについて、「民主的な基準に沿っておらず、公平性に欠け、チン民族全体の結束を真に代表・反映していない」と批判的な立場を取り、それに対抗する形で組織されました。

歴史的背景

2020年の総選挙で国民民主連盟（NLD）がチン州で圧倒的な勝利を収めた後、2021年の軍事クーデター発生時には多くの市民が抗議活動に参加しました。しかし、国軍による暴力的な弾圧が激化するにつれて、抗議者たちは武装抵抗へと移行しました。同年4月には、州内9郡区の抗議グループがチンランド防衛隊（CDF）を結成することに合意しましたが、これは統合された単一組織ではなく、包括的な指導体制もありませんでした。一方、チン民族戦線（CNF）は当時、政府との全国停戦合意の枠組み内に留まる姿勢を見せており、CDFの一派であるCDFミンダッが武器や訓練の提供を求めた際も、CNFはこれを拒否しました。

同年4月下旬には、ミンダッで拘束された抗議者7名の釈放を当局が拒否したことから大規模な抗議行動が発生し、警察の発砲が暴動へと発展しました。これに対し、CDFミンダッは国軍兵士3名を射殺し、その後の国軍増援部隊に対する待ち伏せ攻撃で大量の武器を鹵獲しました。5月下旬、国軍による空挺攻撃を受けたCDFミンダッは山岳地帯へ撤退しました。

CNFは武力衝突への直接的な関与を避けつつも、抵抗勢力内での政治的主導権確立を目指しました。2021年4月には、NLD議員らと協力して暫定チン民族諮問評議会（ICNCC）を立ち上げ、同年8月にはチンランド共同防衛委員会（CJDC）を結成し、指導的立場を担いました。この間、後にCBの主要メンバーとなる勢力は、反軍政統一軍事同盟の結成をCNFに繰り返し提案しましたが、受け入れられませんでした。

CNFはICNCCとCJDCを将来的な暫定統治構造の下に統合する必要性を認識し、2022年9月に調整委員会を設立してチンランド憲章の制定と暫定政府樹立を目指しました。しかし、憲章制定プロセスは停滞し、CNFはこれに不満を抱き、2023年4月にICNCCを脱退しました。これはCNFが自らの意向を十分に反映できなかったためとも指摘されています。

CJDCの会議でCNFが新たなチン州政府設立を提案した際、一部の構成組織はICNCCが既にその役割を担っているとして強く反発しました。それにもかかわらず、CNFは影響力を行使し、チンランド評議会（CC）を主導的に設立しました。CCはチン民族軍（CNA）をチン州唯一の武装勢力と認め、CNF/CNAの旗を「革命期」のチン州旗と定めました。CNFとその同盟は、2023年12月にCJDCを一方的に解散し、CCの樹立とチンランド政府の承認を強行しました。これに反発したCDFのいくつかの派閥、チン民族防衛隊（CNDF）、およびPDFゾーランドは、同年12月30日に同盟を結成し、チン兄弟同盟（CB）が誕生しました。CBはCCの設立を認めず、ICNCCの正統性を主張しました。

この対立の背景には、政策的な意見の相違だけでなく、長年にわたる部族間の複雑な関係も影響しているとされます。また、アラカン軍（AA）がチン州南部のCB傘下組織に資金や軍事訓練を提供していることも、CBとCC間の緊張を高める要因となっています。

チンランド評議会（CC）との衝突

CB結成後、CBとCCの間で武力衝突が発生しました。2024年1月24日には、CB構成組織であるマーラランド防衛隊（MDF）がライレンピでCNA兵士とCC傘下兵士を殺害する事件が起こり、これに対しCC側が報復攻撃を行いました。同年5月初旬、CBがチンドウェの町を占領した後、CBはCCとCNFが紛争に乗じて勢力圏を拡大しようとしていると非難し、CNFに対して州都ハカへの攻撃を優先するよう促すとともに、対立が続く場合は「反撃」すると警告しました。

特にマトゥピ郡区では、抵抗勢力がCB側とCC側に二分され、状況が複雑化しました。2024年6月には、AAやヨー軍の支援を受けたCBがマトゥピ郡区の国軍基地への攻撃を開始しました。これに対し、CCも独自の攻撃を開始しましたが、最終的にCCは撤退し、CBとAAが基地を占領しました。この期間中、CNF傘下組織がCBを標的とした攻撃を多数実行したことが報告されており、捕虜となった国軍兵士の証言からは、CNFが同時期に国軍と連携していた可能性も示唆されています。また、AAが占拠するパレッワを経由してラカイン州へ向かう物資の流れが、インドのライ・チン系団体によって阻止される出来事も発生し、CNFがAAに圧力をかける目的があったと見られています。

和平への試みと将来の展望

このような衝突が続く中、対話による解決を目指す動きも生まれました。2024年7月にはCCが対話を呼びかけ、同年8月にはゾ再統一機構の仲介により、インドでCBとCCの代表団が会談しました。国民統一政府（NUG）も緊張緩和に向けた働きかけを行い、外部からの仲介の有効性を示唆しました。同年9月、ゾ再統一機構の仲介のもと、両組織は意見の相違が生じても武力衝突を避けるとする初期合意に達しました。

2025年1月には、CC傘下組織のティディム郡区での国軍攻撃計画に対し、CB傘下のPDFゾーランドが強く反発する声明を出すなど、一部地域での緊張は継続しました。ティディム郡区はCNFの主要な民族グループとは異なるエスニックグループが中心であり、CNFの進出への警戒感も背景にあると見られています。

しかし、2025年2月26日、インドのミゾラム州政府の仲介により、CBとCCの代表団はアイゾールで歴史的な会談を行い、将来的に合併して「チン民族評議会（Chin National Council: CNC）」を形成することで合意しました。この合意に基づき、両勢力は新たなチン民族憲法を批准した後、既存のCCとICNCCを解散することを決定しました。2025年5月、CBは統一された武装組織の創設計画を発表するなど、合意に向けた具体的な動きが見られます。

主な加盟組織

CBの結成当初からの主要メンバーは以下の組織です。

チン民族機構（Chin National Organization: CNO）/ チン民族防衛隊（Chin National Defence Force: CNDF）
チン民族評議会（Chin National Council: CNC）/ CDFミンダッ（CDF-Mindat）
ゾミ連邦同盟（Zomi Federal Union: ZFU）/ PDFゾーランド（PDF-Zoland）

その後、以下の組織がCBに加わりました。

マーラ領土委員会（Mara Territorial Council: MTC）/ マーラランド防衛隊（Maraland Defence Force: MDF）
CDFマトゥピ（第1旅団）（CDF-Matupi, Battalion 1）
CDFカンペレッ（CDF-Kanpetlet）

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