ツール・ド・フランス1991

ツール・ド・フランス1991：インドゥライン、伝説への序章

1991年のツール・ド・フランスは、第78回目の開催として、7月6日から7月28日まで全22ステージにわたって繰り広げられました。この大会は、後にツール史上初の5連覇を達成するミゲル・インドゥラインが、初めて総合優勝を飾った記念すべき大会として、その名を深く刻んでいます。

注目選手たちの思惑

グレッグ・レモンは、前人未到の総合3連覇を目指し、今大会に臨みました。彼の最大のライバルと目されたのは、前年総合2位のクラウディオ・キアプッチや、ジャンニ・ブーニョといったイタリア勢でした。

一方、ペドロ・デルガドをリーダーとするスペインのモビスター・チームバネストは、この年、前年まで東芝のエースとして活躍していたフランス人、ジャンフランソワ・ベルナールをチームに迎え入れました。デルガドとのダブルリーダー体制を敷き、チームとして3年ぶりのマイヨ・ジョーヌ奪還に燃えていました。しかし、大会が始まると、徐々にミゲル・インドゥラインの調子が上がっていき、2人のリーダーを凌駕する存在感を示すようになります。

レース展開

序盤、レモンは好調を維持し、第8ステージの個人タイムトライアルでは区間2位に入り、早くもマイヨ・ジョーヌを獲得しました。しかし、このステージを制したのはインドゥライン。この時点でレモンに2分17秒差の総合4位につけ、ベルナールも5位、デルガドも12位と、バネスト勢も好調なスタートを切りました。

しかし、ピレネーステージ初戦となる第12ステージで、レースの流れは大きく変わります。シャーリー・モテがステージ優勝を飾る一方で、上位勢はクライマー勢が中心となり、レモン、デルガド、ベルナール、そしてインドゥラインも消耗してしまいます。リュク・ルブランがマイヨを奪い、レモンは2分35秒差で2位に後退。バネスト勢は、インドゥラインが4分44秒差の5位、ベルナールが5分46秒差の7位、デルガドは7分5秒差の10位まで順位を落とし、マイヨ奪回は困難な状況に陥りました。

ここでバネストは、マイヨ獲得の可能性が最も高いインドゥラインをリーダーに据えるという苦渋の決断を下します。そして、この決断が、続く第13ステージで的中することになります。

第13ステージでは、デルガドとベルナールがインドゥラインをアシストするという贅沢な布陣を敷き、ルブランとレモンを徹底的に潰しにかかります。その結果、インドゥラインは区間優勝のキアプッチとほぼ同時にゴールし、レモンは7分17秒、ルブランは12分35秒もの遅れを喫し、インドゥラインがついにマイヨ・ジョーヌを奪取しました。

アルプスステージに入っても、インドゥラインの勢いは止まりません。デルガドとベルナールの献身的なサポートを受け、第17ステージのラルプ・デュエズゴールでは、区間優勝のブーニョにわずか1秒差で2位に入ります。この時点でレモンは6分39秒差の総合5位となり、3連覇は絶望的な状況となりました。

第18ステージでは、インドゥラインは総合2位のブーニョ、同3位のキアプッチをマークし、同タイムでゴール。一方、レモンは7分22秒もの差をつけられ、総合8位に後退。この時点で、レモンの3連覇の夢は完全に打ち砕かれました。

第21ステージの個人タイムトライアルで、インドゥラインは区間優勝を果たし、ブーニョ以下を完全に突き放し、総合優勝を決定的なものとしました。

こうして、ミゲル・インドゥラインは、後にツール総合5連覇という偉業を達成する足がかりとなる、初の総合優勝を成し遂げたのです。

最終ステージの悲劇

最終ステージでは、ゴールスプリント中にアブドヤパロフが蛇行し、道路脇の広告モニュメントに激突して転倒。後続車も巻き込まれる大事故が発生し、シャンゼリゼのゴールは騒然とした状況となりました。アブドヤパロフは病院に搬送され、表彰式では3賞のうちの一人が欠席するという異例の事態となりました。

NHK最後のツール放送

NHKによるツール・ド・フランスの放送は、この1991年大会をもって終了し、翌年からはフジテレビが放映権を引き継ぎました。1985年から1991年までの7年間、NHKが取材してきたツールの総集編は、後にDVDとして発売されています。

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