テオドシウス・ドブジャンスキー
テオドシウス・ドブジャンスキー（Theodosius Dobzhansky, 1900年1月25日 - 1975年12月18日）は、20世紀を代表する遺伝学者、進化生物学者の一人です。帝政ロシア時代のウクライナに生まれ、後にアメリカ合衆国に移住・帰化しました。彼の最大の功績は、遺伝学と進化論を結びつけ、後に「ネオダーウィニズム」と呼ばれる新しい統合的な進化観を形成する上で中心的な役割を担ったことにあります。
ドブジャンスキーは、ウクライナのネミールィウで、数学教師グリゴリー・ドブジャンスキーの一人息子として誕生しました。1910年に一家はキエフへ転居。幼少の頃から生物学に強い関心を持ち、特に高校時代には蝶の採集に熱中し、生物学者を志しました。1915年頃からは、昆虫学者ヴィクトル・ルチニクとの出会いをきっかけに、甲虫の研究に深く取り組むようになります。1917年からキエフ大学で学び、1924年まで同大学に在籍しました。卒業後は、レニングラードのユーリ・フィリプチェンコのもとで、当時遺伝学の実験材料として注目され始めていたキイロショウジョウバエの研究室で研鑽を積みました。
この時期、ウクライナやロシアは第一次世界大戦後の社会的な激動期にありました。ロシア革命や内戦が相次ぎ、最終的にソビエト連邦の一部としてウクライナ社会主義ソビエト共和国が成立するという歴史的な転換期でした。
1924年8月8日には、キエフで研究していた遺伝学者ナタリア・シヴェルツェヴァと結婚しました。妻ナタリアとの間には一人娘ソフィが生まれ、後に人類学者のマイケル・コウと結婚しています。
1927年、ドブジャンスキーはロックフェラー財団の奨学金を得てアメリカ合衆国へ渡りました。ニューヨークに到着後、コロンビア大学で、キイロショウジョウバエを用いた遺伝学研究のパイオニアであるトーマス・ハント・モーガンの研究室に加わります。1930年には、モーガンがカリフォルニア工科大学に移るのに同行し、研究を続けました。
ドブジャンスキーの独創性は、ショウジョウバエを単なる実験室のモデル生物としてだけでなく、野外集団を対象とした研究に展開した点にあります。彼は様々な地域のショウジョウバエ集団を調査し、地理的に近い集団ほど遺伝的に類似性が高いことなど、集団内の遺伝的多様性や地理的変異に関する重要な知見を得ました。このフィールドワークの経験は、後の進化論への貢献の基盤となります。
1937年には、彼の主著となる『遺伝学と種の起原（Genetics and the Origin of Species）』を出版しました。この書籍は、遺伝学の知見をダーウィンの進化論に統合し、進化を「遺伝子プールにおける対立遺伝子頻度の変化」として定義するなど、ネオダーウィニズムの成立における古典的名著となりました。同年、彼はアメリカ合衆国に帰化しました。
この時期、カリフォルニア工科大学では、同じくショウジョウバエ研究者であるアルフレッド・スタートヴァントとの間で、教授職を巡る意見の対立が表面化していました。
1940年、ドブジャンスキーはコロンビア大学に戻り、1962年まで教鞭をとりました。この間、人種問題に関する1950年のユネスコ宣言「人種問題に関する声明（The Race Question）」の署名者の一人となるなど、科学者として社会的な問題にも関与しました。1962年からは、ロックフェラー研究所（後にロックフェラー大学）に移り、1971年に引退するまで研究活動を続けました。
1968年、ドブジャンスキーはリンパ性白血病と診断されます。比較的進行が穏やかな病気でしたが、余命が限られていることを自覚することになります。1969年には、長年連れ添った妻ナタリアが亡くなりました。
1971年にロックフェラー大学を引退した後も、彼は名誉教授として研究への情熱を失いませんでした。カリフォルニア大学デービス校に移り、そこで弟子のフランシスコ・J・アヤラ准教授と共に研究を継続しました。晩年には、生物学における進化の重要性を強調した有名なエッセイ「進化の光に照らされなければ、生物学では何も意味をなさない（Nothing in Biology Makes Sense Except in the Light of Evolution）」を発表しています。
ドブジャンスキーは熱心なダーウィニズムの擁護者であると同時に、信仰篤い人物でもありました。彼は自身を正教会の信徒と考えており、神は進化というプロセスを通して創造を行ったのだという見解を持っていました。
白血病は徐々に進行し、1975年夏には病状が悪化しました。同年12月11日にサン・ハシントへ旅行中に体調を崩し、12月18日、心不全のため同地で逝去しました。遺体は火葬され、遺灰はカリフォルニア州の荒野に撒かれました。
ドブジャンスキーは、その卓越した業績に対し、アメリカ国家科学賞（1964年）やフランクリン・メダル（1973年）など、数々の栄誉ある賞を受賞しています。
彼の主な著作には、先に触れた『遺伝学と種の起原』（1937年）のほか、『進化、遺伝と人間』（Evolution, Genetics, & Man, 1955年）、『進化する人間』（Mankind Evolving, 1962年）、そして没後に出版された共著『進化』（Evolution, 1977年）などがあり、多くの著作が日本語にも翻訳されています。
若年期と教育
ドブジャンスキーは、ウクライナのネミールィウで、数学教師グリゴリー・ドブジャンスキーの一人息子として誕生しました。1910年に一家はキエフへ転居。幼少の頃から生物学に強い関心を持ち、特に高校時代には蝶の採集に熱中し、生物学者を志しました。1915年頃からは、昆虫学者ヴィクトル・ルチニクとの出会いをきっかけに、甲虫の研究に深く取り組むようになります。1917年からキエフ大学で学び、1924年まで同大学に在籍しました。卒業後は、レニングラードのユーリ・フィリプチェンコのもとで、当時遺伝学の実験材料として注目され始めていたキイロショウジョウバエの研究室で研鑽を積みました。
この時期、ウクライナやロシアは第一次世界大戦後の社会的な激動期にありました。ロシア革命や内戦が相次ぎ、最終的にソビエト連邦の一部としてウクライナ社会主義ソビエト共和国が成立するという歴史的な転換期でした。
1924年8月8日には、キエフで研究していた遺伝学者ナタリア・シヴェルツェヴァと結婚しました。妻ナタリアとの間には一人娘ソフィが生まれ、後に人類学者のマイケル・コウと結婚しています。
アメリカでの活躍
1927年、ドブジャンスキーはロックフェラー財団の奨学金を得てアメリカ合衆国へ渡りました。ニューヨークに到着後、コロンビア大学で、キイロショウジョウバエを用いた遺伝学研究のパイオニアであるトーマス・ハント・モーガンの研究室に加わります。1930年には、モーガンがカリフォルニア工科大学に移るのに同行し、研究を続けました。
ドブジャンスキーの独創性は、ショウジョウバエを単なる実験室のモデル生物としてだけでなく、野外集団を対象とした研究に展開した点にあります。彼は様々な地域のショウジョウバエ集団を調査し、地理的に近い集団ほど遺伝的に類似性が高いことなど、集団内の遺伝的多様性や地理的変異に関する重要な知見を得ました。このフィールドワークの経験は、後の進化論への貢献の基盤となります。
1937年には、彼の主著となる『遺伝学と種の起原（Genetics and the Origin of Species）』を出版しました。この書籍は、遺伝学の知見をダーウィンの進化論に統合し、進化を「遺伝子プールにおける対立遺伝子頻度の変化」として定義するなど、ネオダーウィニズムの成立における古典的名著となりました。同年、彼はアメリカ合衆国に帰化しました。
この時期、カリフォルニア工科大学では、同じくショウジョウバエ研究者であるアルフレッド・スタートヴァントとの間で、教授職を巡る意見の対立が表面化していました。
1940年、ドブジャンスキーはコロンビア大学に戻り、1962年まで教鞭をとりました。この間、人種問題に関する1950年のユネスコ宣言「人種問題に関する声明（The Race Question）」の署名者の一人となるなど、科学者として社会的な問題にも関与しました。1962年からは、ロックフェラー研究所（後にロックフェラー大学）に移り、1971年に引退するまで研究活動を続けました。
晩年と思想
1968年、ドブジャンスキーはリンパ性白血病と診断されます。比較的進行が穏やかな病気でしたが、余命が限られていることを自覚することになります。1969年には、長年連れ添った妻ナタリアが亡くなりました。
1971年にロックフェラー大学を引退した後も、彼は名誉教授として研究への情熱を失いませんでした。カリフォルニア大学デービス校に移り、そこで弟子のフランシスコ・J・アヤラ准教授と共に研究を継続しました。晩年には、生物学における進化の重要性を強調した有名なエッセイ「進化の光に照らされなければ、生物学では何も意味をなさない（Nothing in Biology Makes Sense Except in the Light of Evolution）」を発表しています。
ドブジャンスキーは熱心なダーウィニズムの擁護者であると同時に、信仰篤い人物でもありました。彼は自身を正教会の信徒と考えており、神は進化というプロセスを通して創造を行ったのだという見解を持っていました。
白血病は徐々に進行し、1975年夏には病状が悪化しました。同年12月11日にサン・ハシントへ旅行中に体調を崩し、12月18日、心不全のため同地で逝去しました。遺体は火葬され、遺灰はカリフォルニア州の荒野に撒かれました。
受賞歴と主な著作
ドブジャンスキーは、その卓越した業績に対し、アメリカ国家科学賞（1964年）やフランクリン・メダル（1973年）など、数々の栄誉ある賞を受賞しています。
彼の主な著作には、先に触れた『遺伝学と種の起原』（1937年）のほか、『進化、遺伝と人間』（Evolution, Genetics, & Man, 1955年）、『進化する人間』（Mankind Evolving, 1962年）、そして没後に出版された共著『進化』（Evolution, 1977年）などがあり、多くの著作が日本語にも翻訳されています。
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