テオドール・サロメ
テオドール＝セザール・サロメ（Théodore-César Salomé, 1834年1月20日 - 1896年7月26日）は、19世紀フランスを代表するオルガン奏者、そして作曲家として知られています。パリで生まれた彼は、高い音楽的才能を示し、名門パリ音楽院で研鑽を積みました。和声と伴奏をフランソワ・バザンに、オルガンをフランソワ・ブノワに師事し、学業を修了しました。音楽院在学中からその才能は認められ、和声やオルガン部門で数々の栄誉ある賞を獲得しています。作曲家としても評価され、1861年にはカンタータ『アタラ』でローマ賞の最高位にあたる第2グランプリを受賞しました。この年はテオドール・デュボワが第1グランプリに輝き、ウジェーヌ・アンティオームやタイタス・コンスタンティンもサロメと同じく第2グランプリを獲得しています。
サロメのキャリアにおいて、パリのサント・トリニテ教会は極めて重要な役割を果たしました。建築家テオドール・バリューの設計によるこの壮麗な教会の建設は1863年に始まり、1867年11月に祝福式が行われましたが、聖別されたのははるか後の1913年のことでした。この長期にわたる空白の理由は明らかではありません。トリニテ教会は、その厳格さで知られつつも、当時のパリにおいて最も重要な教会の一つに数えられ、裕福な教区民が多く集まる場所でした。この教区民の中には、シャルル・グノーやジョルジュ・ビゼーといった著名な音楽家もおり、彼らはサロメを高く評価し、親愛の情を抱いていました。グノーは親友であるポール・ポワールソンを含む数人の生徒をサロメのオルガンレッスンのもとに送ったと言われています。ジュール・マスネ、アンブロワーズ・トマス、フランソワ・バザンといった音楽家たちもまた、作曲を学ぶ生徒たちをサロメに託しました。
この新しい教会には、当時最高のオルガン製作者であったアリスティド・カヴァイエ＝コルが、3段鍵盤とペダル付きの46ストップを擁する壮大な大オルガンと、2段鍵盤とペダル付きの12ストップを持つ合唱オルガンを設置しました。大オルガンは1869年3月16日、カミーユ・サン＝サーンス、セザール・フランク、シャルル＝マリー・ヴィドールといった名手たちによって落成演奏が行われました。サロメは、教会建設中に使用されていた臨時オルガン時代から合唱団オルガニストの職に就いており、新しいオルガンが設置されてからも1896年に亡くなるまでこの職を続けました。彼の後任には、オペレッタ作曲家として知られるクロード・テラスが就きました。大オルガニストには当初シャルル・アレクシス・ショーヴェが任命されましたが、その任はわずか3年で終わり、1871年のショーヴェの早世を受けてアレクサンドル・ギルマンが後を引き継ぎました。ギルマンとサロメは親友となり、互いの作品を献呈し合ったり、ギルマンのアメリカ公演時にはサロメが大オルガン奏者として代役を務めたりするなど、深い交流がありました。
サロメは、教会でのミサや宗教行事において、その豊かな才能と深い音楽的知識をもってオルガンを演奏しました。彼の作曲した神聖な作品は、合唱長エミール・ブイシェールの指導のもと、約20人の子供と10人のプロ歌手から成るサント・トリニテの合唱団によってしばしば演奏されました。1875年6月5日には、4000人の会衆が見守る中、ジョルジュ・ビゼーの葬儀ミサでオルガンを演奏しました。彼は前奏曲としてビゼーのオペラ『真珠採り』のテーマを、また赦免の際には『カルメン』のテーマを即興で演奏したと伝えられています。
ショーヴェ亡き後の大オルガニスト選考においては、サン＝サーンスが熱心にサロメを推薦し、牧師への手紙でその音楽家としての資質と人柄を高く評価しました。グノーもまた牧師に手紙を送り、サロメへの支持を表明しました。ビゼーも推薦状の作成を申し出たと記録されていますが、最終的に大オルガニストのポストはアレクサンドル・ギルマンに決定しました。サロメは音楽院での試験の聴講にもしばしば出席しましたが、常に教会の職務を最優先としました。経済的には苦労があったようで、1887年8月には牧師に宛てて、サン・オーギュスタン教会やマドレーヌ教会などの同僚オルガニストと同程度の収入への昇給を求める手紙を送っています。
作曲家としての彼の作品は、ピアノ曲が20世紀初頭にアンリ・ルモワンヌ社から出版された「ピアニストのパンテオン」に収録されるなどしています。管弦楽作品もいくつか存在し、1877年には国民音楽協会によって演奏されました。これらの作品は、専門家から彼の輝かしい将来を予感させるものと評価されましたが、サロメ自身は、オルガン奏者および合唱指揮者としての活動に重きを置くことを選びました。彼のオルガン作品の中で特に知られるのが、1885年に作曲された大オルガンのための奉献曲 変ニ長調 (Offertoire en ré bémol majeur) です。この曲はパリのマッカー社から出版され、サロメが深く愛情を注いでいた義母のマダム・コンドロに献呈されました。この作品は特にアメリカで絶大な人気を博し、親友のギルマンもアメリカ公演の際に度々演奏しました。しかし、音楽評論家ジョン・ヘンダーソンは「これまでに書かれたオルガン音楽の中で最悪の曲の一つに違いない」と酷評するなど、評価は分かれています。サロメ自身は後にこの曲をフルオーケストラ用に編曲し、「セレナード」と名付けました。
サロメの人物像については、1893年にニューヨーク・ミュージカル・クーリエ紙の特派員が訪れた際の記述が残されています。当時59歳だったサロメは、「上質な銀髪、ほっそりとした穏やかな顔立ち、ピンク色の頬、柔らかな口元、そして魅力的な茶色の瞳を持つ、ハンサムな男性」と評され、ゆったりとした服装で「明らかな個人的な野心は見られない」と描写されています。1875年には、15歳年下のセレステ・コンドロと結婚し、トリニテ教会からほど近いサンラザール通りの新居に移り住みました。息子ルネをもうけ、家族仲は非常に良かったようです。友人からは「結婚しない詩人、あるいは文学者」と思われていた彼でしたが、結婚後は幸せな家庭生活を送ったと見られます。特に義母ヴィルジニー＝マリー・コンドロとの間に深い愛情があったことが、奉献曲の献呈からも伺えます。
1896年、サロメは家族と共にパリ郊外のサン＝ジェルマン＝アン＝レーに移り住み、静養を兼ねてそこで生活を始めました。彼は二度とサント・トリニテ教会に戻ることはありませんでした。1896年7月26日にこの地で亡くなりました。彼の訃報は、特に親友であったアレクサンドル・ギルマンに大きな衝撃を与えました。ウィリアム・C・カールはミュージカル・クーリエ紙に寄せた追悼記事の中で、サロメの突然の死への驚き、才能ある芸術家であること、隠遁的でありながら愛想が良く魅力的な人柄、そしてギルマンとの強い友情について述べています。葬儀は7月22日にサン＝ジェルマンの教区教会で執り行われ、ギルマンが大オルガンを演奏し、バッハやカロンの音楽が奏でられました。ラ・トリニテの合唱団も参列し、歌を捧げました。カールはまた、アメリカでサロメの音楽が広く支持されていることに触れ、その死が惜しまれるだろうと記しています。ミュージカル・タイムズ紙も短い死亡記事を掲載し、イギリスにおいてもサロメのオルガン作品が高く評価されていることに言及しました。テオドール＝セザール・サロメは、華々しいキャリアよりも教会のオルガニストとしての職務に献身し、多くの音楽家から尊敬を集めた人物でした。
サロメのキャリアにおいて、パリのサント・トリニテ教会は極めて重要な役割を果たしました。建築家テオドール・バリューの設計によるこの壮麗な教会の建設は1863年に始まり、1867年11月に祝福式が行われましたが、聖別されたのははるか後の1913年のことでした。この長期にわたる空白の理由は明らかではありません。トリニテ教会は、その厳格さで知られつつも、当時のパリにおいて最も重要な教会の一つに数えられ、裕福な教区民が多く集まる場所でした。この教区民の中には、シャルル・グノーやジョルジュ・ビゼーといった著名な音楽家もおり、彼らはサロメを高く評価し、親愛の情を抱いていました。グノーは親友であるポール・ポワールソンを含む数人の生徒をサロメのオルガンレッスンのもとに送ったと言われています。ジュール・マスネ、アンブロワーズ・トマス、フランソワ・バザンといった音楽家たちもまた、作曲を学ぶ生徒たちをサロメに託しました。
この新しい教会には、当時最高のオルガン製作者であったアリスティド・カヴァイエ＝コルが、3段鍵盤とペダル付きの46ストップを擁する壮大な大オルガンと、2段鍵盤とペダル付きの12ストップを持つ合唱オルガンを設置しました。大オルガンは1869年3月16日、カミーユ・サン＝サーンス、セザール・フランク、シャルル＝マリー・ヴィドールといった名手たちによって落成演奏が行われました。サロメは、教会建設中に使用されていた臨時オルガン時代から合唱団オルガニストの職に就いており、新しいオルガンが設置されてからも1896年に亡くなるまでこの職を続けました。彼の後任には、オペレッタ作曲家として知られるクロード・テラスが就きました。大オルガニストには当初シャルル・アレクシス・ショーヴェが任命されましたが、その任はわずか3年で終わり、1871年のショーヴェの早世を受けてアレクサンドル・ギルマンが後を引き継ぎました。ギルマンとサロメは親友となり、互いの作品を献呈し合ったり、ギルマンのアメリカ公演時にはサロメが大オルガン奏者として代役を務めたりするなど、深い交流がありました。
サロメは、教会でのミサや宗教行事において、その豊かな才能と深い音楽的知識をもってオルガンを演奏しました。彼の作曲した神聖な作品は、合唱長エミール・ブイシェールの指導のもと、約20人の子供と10人のプロ歌手から成るサント・トリニテの合唱団によってしばしば演奏されました。1875年6月5日には、4000人の会衆が見守る中、ジョルジュ・ビゼーの葬儀ミサでオルガンを演奏しました。彼は前奏曲としてビゼーのオペラ『真珠採り』のテーマを、また赦免の際には『カルメン』のテーマを即興で演奏したと伝えられています。
ショーヴェ亡き後の大オルガニスト選考においては、サン＝サーンスが熱心にサロメを推薦し、牧師への手紙でその音楽家としての資質と人柄を高く評価しました。グノーもまた牧師に手紙を送り、サロメへの支持を表明しました。ビゼーも推薦状の作成を申し出たと記録されていますが、最終的に大オルガニストのポストはアレクサンドル・ギルマンに決定しました。サロメは音楽院での試験の聴講にもしばしば出席しましたが、常に教会の職務を最優先としました。経済的には苦労があったようで、1887年8月には牧師に宛てて、サン・オーギュスタン教会やマドレーヌ教会などの同僚オルガニストと同程度の収入への昇給を求める手紙を送っています。
作曲家としての彼の作品は、ピアノ曲が20世紀初頭にアンリ・ルモワンヌ社から出版された「ピアニストのパンテオン」に収録されるなどしています。管弦楽作品もいくつか存在し、1877年には国民音楽協会によって演奏されました。これらの作品は、専門家から彼の輝かしい将来を予感させるものと評価されましたが、サロメ自身は、オルガン奏者および合唱指揮者としての活動に重きを置くことを選びました。彼のオルガン作品の中で特に知られるのが、1885年に作曲された大オルガンのための奉献曲 変ニ長調 (Offertoire en ré bémol majeur) です。この曲はパリのマッカー社から出版され、サロメが深く愛情を注いでいた義母のマダム・コンドロに献呈されました。この作品は特にアメリカで絶大な人気を博し、親友のギルマンもアメリカ公演の際に度々演奏しました。しかし、音楽評論家ジョン・ヘンダーソンは「これまでに書かれたオルガン音楽の中で最悪の曲の一つに違いない」と酷評するなど、評価は分かれています。サロメ自身は後にこの曲をフルオーケストラ用に編曲し、「セレナード」と名付けました。
サロメの人物像については、1893年にニューヨーク・ミュージカル・クーリエ紙の特派員が訪れた際の記述が残されています。当時59歳だったサロメは、「上質な銀髪、ほっそりとした穏やかな顔立ち、ピンク色の頬、柔らかな口元、そして魅力的な茶色の瞳を持つ、ハンサムな男性」と評され、ゆったりとした服装で「明らかな個人的な野心は見られない」と描写されています。1875年には、15歳年下のセレステ・コンドロと結婚し、トリニテ教会からほど近いサンラザール通りの新居に移り住みました。息子ルネをもうけ、家族仲は非常に良かったようです。友人からは「結婚しない詩人、あるいは文学者」と思われていた彼でしたが、結婚後は幸せな家庭生活を送ったと見られます。特に義母ヴィルジニー＝マリー・コンドロとの間に深い愛情があったことが、奉献曲の献呈からも伺えます。
1896年、サロメは家族と共にパリ郊外のサン＝ジェルマン＝アン＝レーに移り住み、静養を兼ねてそこで生活を始めました。彼は二度とサント・トリニテ教会に戻ることはありませんでした。1896年7月26日にこの地で亡くなりました。彼の訃報は、特に親友であったアレクサンドル・ギルマンに大きな衝撃を与えました。ウィリアム・C・カールはミュージカル・クーリエ紙に寄せた追悼記事の中で、サロメの突然の死への驚き、才能ある芸術家であること、隠遁的でありながら愛想が良く魅力的な人柄、そしてギルマンとの強い友情について述べています。葬儀は7月22日にサン＝ジェルマンの教区教会で執り行われ、ギルマンが大オルガンを演奏し、バッハやカロンの音楽が奏でられました。ラ・トリニテの合唱団も参列し、歌を捧げました。カールはまた、アメリカでサロメの音楽が広く支持されていることに触れ、その死が惜しまれるだろうと記しています。ミュージカル・タイムズ紙も短い死亡記事を掲載し、イギリスにおいてもサロメのオルガン作品が高く評価されていることに言及しました。テオドール＝セザール・サロメは、華々しいキャリアよりも教会のオルガニストとしての職務に献身し、多くの音楽家から尊敬を集めた人物でした。
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