テオフィラクトス・シモカテス

テオフィラクトス・シモカテス：古代後期最後の歴史家

テオフィラクトス・シモカテス（Theophylactus Simocatta、中世ギリシャ語: Θεοφύλακτος Σιμοκάτ(τ)ης）は、7世紀初頭の東ローマ帝国（ビザンツ帝国）の歴史家であり、古代後期における最後の歴史家の一人とされています。彼の著作は、7世紀の政治、社会、文化を知る上で貴重な史料です。

生涯と業績

シモカテスは、皇帝ヘラクレイオスの時代、630年頃に活動していました。彼の代表作は、皇帝マウリキウス（在位：582年 - 602年）の治世を記述した8巻からなる歴史書です。この歴史書は、当時の出来事を伝える最良かつ最古の資料として評価されています。ただし、文体は古典的で、やや衒学的な傾向があり、プロコピオスのような歴史家と比較すると、記述のレベルは低いという評価もあります。

シモカテスの歴史書は、7世紀のスラヴ人、アヴァール人、ペルシア人に関する情報や、マウリキウス皇帝の悲劇的な死について重要な情報を提供しています。彼は、ヘラクレイオス帝によるサーサーン朝ペルシアに対する戦争（610年 - 628年）には言及していますが、634年に始まったアラブ人との戦争には触れていません。このことから、彼の著作は630年頃に完成したと考えられています。資料としては、特にエピファニアのヨアンネスの歴史記述を参照しています。

エドワード・ギボンは、シモカテスについて「判断力が不足しており、些細なことを広げながら、最も興味深い事実を簡単に述べるだけにしている」と評しています。しかし、これは彼の記述の信頼性を否定するものではありません。

その他の著作と影響

シモカテスは歴史書以外にも、『物理の諸問題 (Quaestiones physicae)』という博物学の著作や、書簡形式で書かれた85編のエッセイ集を著しています。また、ニコラウス・コペルニクスは、シモカテスのギリシャ語の詩句をラテン語の散文に翻訳し、叔父であるルーカス・ヴァッツェンローデに献呈しています。この翻訳本は1509年にクラクフで出版され、コペルニクスが自費で買い占めた唯一の著書として知られています。

極東に関する記述

シモカテスは、極東地域についても記述を残しており、隋の初代皇帝である楊堅（文帝、在位：581年 - 604年）が南朝の陳を滅ぼして中国を再統一した出来事を、マウリキウス帝の在位中の出来事として正確に記述しています。しかし、中国の地理、習慣、文化については不正確な情報も伝えており、中国人は偶像崇拝を行うものの、統治は巧みであると見ていました。彼は、中国の支配者が「神の子」を意味する「タイソン (Taisson)」と呼ばれていると述べていますが、これは皇帝の称号である中国語の「天子 (Tianzi)」、あるいは当時の唐の皇帝である太宗（李世民）の名を誤って伝えたものと考えられています。

シモカテスの著作は、東ローマ帝国の歴史だけでなく、当時の世界観や文化交流を知る上で重要な資料です。彼の記述には誤りや偏りも含まれていますが、注意深く分析することで、7世紀の社会や人々の思考を垣間見ることができます。

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