テッサロニキの初期キリスト教とビザンティン様式の建造物群

テッサロニキの初期キリスト教とビザンティン様式の建造物群

ギリシャのテッサロニキには、ローマ帝国時代から東ローマ帝国時代にかけて建設された、初期キリスト教とビザンティン様式の建造物が数多く残っています。これらの建造物は、1988年にユネスコの世界遺産に登録され、歴史的・文化的に重要な価値を持つものとして、世界的に認められています。

歴史的背景

古代、テッサロニキは「テルマ」と呼ばれていました。天然の良港と街道を有する交易都市として発展し、カッサンドロスによって「テッサロニケ」と改名されました。その後、共和政ローマに占領された後も、ローマ属州マケドニアの首府として繁栄を続けました。使徒パウロがこの地でキリスト教を布教したものの、ユダヤ人に告発され、退去したという記録が残っています。ローマ帝国後期には、ガレリウス帝によって凱旋門と霊廟が建設され、コンスタンティヌス1世によって港湾が拡張されました。テオドシウス1世は、都市を守るための市壁を整備しました。

ローマ帝国が東西に分裂すると、テッサロニキは東ローマ帝国の第二の都となり、バルカン半島の拠点として首都と密接な関係を保ちました。しかし、580年頃から始まったスラブ人の侵入によって、バルカン半島は多くの地域で荒廃しました。テッサロニキも都市生活を営むことが困難になりましたが、城壁によって守られていたため、壊滅を免れました。

8世紀になると、東ローマ帝国はスラブ人の影響を排除し、徐々に再生していきました。11世紀には、バシレイオス1世によって帝国の絶頂期を迎え、テッサロニキも再び活発な活動を行うようになりました。特に、ラテン帝国崩壊後のパレオロゴス朝時代には、テッサロニキの繁栄は頂点を迎え、多くの修道院や聖堂が建設されました。コンスタンティノープルの活動が衰退した後も、テッサロニキでは活発な建築活動が行われました。

主な建造物

テッサロニキには、古代および中世に建設された多くの聖堂が残っています。

ロトンダ: ガレリウス帝によって霊廟として建設されましたが、彼の死後、聖ゲオルギオスの教会堂として献堂され、キリスト教の聖堂となりました。その後、オスマン帝国時代にはモスクとして利用され、ミナーレが建設されました。現在は美術館として利用されていますが、1978年の地震以降、修復作業が続けられています。内部にはモザイク画が残っています。
アヒロピイトス聖堂: 「人の手でつくられたのではない」という意味を持つ、初期キリスト教建築の中でも最も古い教会堂の一つです。5世紀中期に建設され、側廊に2階のあるバシリカ形式の建物です。内部の装飾は残っていませんが、現在は博物館として公開されています。
アギオス・ディミトリオス聖堂: テッサロニキの守護聖人である聖デメトリオスに献堂されたバシリカです。彼が殉教したとされる共同浴場の竃を囲むように建設されました。ギリシャ最大のギリシャ正教会の聖堂であり、1917年の火災で焼失しましたが、可能な限り元の材料を使用して再建されました。6世紀から7世紀にかけて作成されたモザイク画が残っています。
アギア・ソフィア聖堂: ギリシャ国内で、東ローマ帝国の暗黒時代に建設された唯一の教会堂です。7世紀中期の創建で、円蓋式バシリカと呼ばれる独特の平面を持ちます。ドームには9世紀頃、アプスには12世紀頃に描かれたモザイク画が残っています。オスマン帝国時代にはモスクとして使われましたが、現在はキリスト教の聖堂に戻っています。
オシオス・ダヴィット聖堂: ラトモス修道院の中央聖堂だった建物で、内接十字型と呼ばれる平面の聖堂でした。現在は東半分のみが残っており、アプス部分にモザイク画が残っています。
パナギア・ハルケオン聖堂: 銅細工師の至聖女と呼ばれる聖堂ですが、本来の呼称は不明です。1028年に創建された4円柱式内接十字型の聖堂で、外面の装飾に特徴が見られます。現在も正教会の聖堂として利用されています。
アギイ・アポストリ聖堂: 1314年に建設された聖堂で、4円柱式内接十字型の平面をナルテクスが取り囲む末期ビザンティン建築の特徴を持っています。内部にはイスタンブールのコーラ修道院に類似するフレスコ画が残っています。
アギオス・ステファノス・オルファノス聖堂: 見栄えのしない小さな聖堂ですが、末期ビザンティン建築の素晴らしいフレスコ画が残っています。フレスコ画は14世紀初期の作品と考えられています。

登録基準

この世界遺産は、以下の世界遺産登録基準を満たしているとして登録されました。

(i) 人類の創造的天才の傑作を表現するものである。
(ii) ある期間を通じて、または、ある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すものである。
(iv) 人類の歴史上重要な時代を例証する、ある形式の建造物、建築物群、技術の集積、または景観の顕著な例である。

関連項目

ローマ建築
ビザンティン建築
初期キリスト教美術

参考文献

シリル・マンゴー著、飯田喜四郎訳『ビザンティン建築』（本の友社）
ジョン・ラウデン著、益田朋幸訳『初期キリスト教美術・ビザンティン美術』（岩波書店）
益田朋幸著『世界歴史の旅　ビザンティン』（山川出版社）

外部リンク

TBS「世界遺産」より、「テッサロニキの初期キリスト教とビザンティン様式の建造物群」スライドショー

テッサロニキの初期キリスト教とビザンティン様式の建造物群は、歴史と文化の証人であり、訪れる人々に深い感動と知識を与えてくれます。

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