テノホビル

テノホビル：HIV-1感染症とB型肝炎治療薬

テノホビルは、抗ウイルス薬として、HIV-1感染症およびB型肝炎の治療に用いられる重要な薬剤です。ジソプロキシルエステルまたはアラフェナミド（アラニンイソプロピルエステルとフェノールとのエステル）のフマル酸塩として製剤化され、様々な形態で提供されています。

製剤と製造販売

テノホビルは、ギリアド・サイエンシズ社が開発した薬剤で、日本では複数の製薬会社が製造販売を行っています。主な製剤として、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩とテノホビルアラフェナミドフマル酸塩があります。それぞれの製剤は、単剤、もしくは他の抗ウイルス薬との合剤として販売されており、治療状況に合わせて選択されます。

例えば、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩は、単剤としてビリアード錠（日本たばこ産業製造、鳥居薬品販売）、エムトリシタビンとの合剤としてツルバダ配合錠（日本たばこ産業製造、鳥居薬品販売）、リルピビリン塩酸塩・エムトリシタビンとの合剤としてコムプレラ配合錠（ヤンセンファーマ）、エルビテグラビル・コビシスタット・エムトリシタビンとの合剤としてスタリビルド配合錠（日本たばこ産業製造、鳥居薬品販売）などがあります。

一方、テノホビルアラフェナミドフマル酸塩は、単剤としてベムリディ錠（ギリアド・サイエンシズ）、エムトリシタビンとの合剤としてデシコビ配合錠（日本たばこ産業製造、鳥居薬品販売）、リルピビリン塩酸塩・エムトリシタビンとの合剤としてオデフシィ配合錠（ヤンセンファーマ）、ビクテグラビルナトリウム・エムトリシタビンとの合剤としてビクタルビ配合錠（ギリアド・サイエンシズ）、エルビテグラビル・コビシスタット・エムトリシタビンとの合剤としてゲンボイヤ配合錠（日本たばこ産業製造、鳥居薬品販売）、ダルナビルエタノール付加物・コビシスタット・エムトリシタビンとの合剤としてシムツーザ配合錠（ヤンセンファーマ）など、様々な組み合わせの製剤が存在します。

薬理作用

テノホビルは、核酸アナログ製剤に分類され、HIVやB型肝炎ウイルスの逆転写酵素を阻害することで、ウイルス増殖を抑制します。逆転写とは、ウイルスRNAからDNAへの転写を行う酵素反応であり、この過程を阻害することでウイルス複製サイクルを遮断します。

特にB型肝炎ウイルスにおいては、エンテカビル（ETV）に対して耐性を獲得したウイルスにも効果を示すことが知られており、多剤耐性ウイルスへの対応において重要な役割を果たします。

テノホビルには、テノホビルジソプロキシル（TDF）とテノホビルアラフェナミド（TAF）の2つのプロドラッグ製剤が存在します。TAFはTDFと比較して血漿中での安定性が高く、より少量の投与で同等の抗ウイルス効果を発揮することが報告されています。これは、TAFが標的細胞内でより高濃度の活性代謝物であるテノホビル二リン酸を産生するためです。

副作用

テノホビルジソプロキシルエステル単剤使用時の主な重大な副作用として、腎不全、重度の腎機能障害、膵炎、乳酸アシドーシス、重度の肝腫大（脂肪肝）などが挙げられます。他の製剤や合剤を使用した場合の副作用については、個々の薬剤の添付文書を参照する必要があります。

天津爆発事故の影響

2015年8月に中国天津市で発生した大規模な倉庫爆発事故は、テノホビルの製造工場にも影響を与えました。これにより、テノホビルの供給不足が懸念され、日本肝臓学会は新規処方の抑制と処方量の制限を推奨する声明を発表しました。この事故は、医薬品供給の脆弱性と国際的な医薬品供給網への依存を改めて浮き彫りにしました。

まとめ

テノホビルは、HIV-1感染症とB型肝炎の治療に広く用いられる重要な抗ウイルス薬です。様々な製剤が提供されており、治療状況に合わせた最適な選択が重要です。副作用や供給状況にも注意を払いながら、医師の指示に従って適切に使用することが求められます。

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