テプラ水道

テプラ水道（Aqua Tepula）

古代ローマにおいて市民生活を支えた重要なインフラストラクチャーの一つに、遠方から水を供給する水道（ローマ水道）があります。テプラ水道（ラテン語: Aqua Tepula）は、紀元前126年に執政官であったグナエウス・セルウィリウス・カエピオとルキウス・カッシウス・ロンギヌスによって建造された、そのローマ水道網を構成する要素の一つです。

当初の水源と特徴

古代ローマの水道に関する貴重な技術書『ローマ水道技術書』を著し、自身も水道長官を務めたセクストゥス・ユリウス・フロンティヌスの記録によれば、テプラ水道の当初の水源は、ローマ市街の南東に位置するアルバーニの丘陵地帯にありました。具体的には、ローマから見てラテン街道沿いの約10マイル（約16km）地点から、さらに東へ約2マイル（約3.2km）進んだ場所です。この水源から供給される水は、その名（テプラは「温かい」を意味するラテン語 tepidus に由来）が示す通り、水温が高かったとされており、飲用にはあまり適さない性質を持っていたと伝えられています。

フロンティヌスによると、改修前のテプラ水道の供給水量は400クイナリア（約16,000 m³/日）でした。

アグリッパによる改修

テプラ水道の運用において、水質の課題が存在したためか、その約90年後の紀元前33年に大規模な改修が行われました。当時の有力者であり、ローマのインフラ整備に尽力したマルクス・ウィプサニウス・アグリッパが主導したこの改修では、ラテン街道の約12マイル（約19km）地点に新たな水源を持つユリア水道が建設されました。アグリッパはこのユリア水道の水源からの水を一部テプラ水道へ供給する形に変更しました。これにより、テプラ水道はユリア水道からの水も運ぶようになります。

ただし、この改修を経た後も、ユリア水道とテプラ水道それぞれの導水渠は市内の給水地点まで独立して水を運んでいたとされています。フロンティヌスは、改修後のテプラ水道がユリア水道から190クイナリア、マルキア水道から92クイナリア、そして新アニオ水道から163クイナリアの水を取り入れ、合計で445クイナリア（約17,800 m³/日）の水量を供給していたと記しています。この記述は、テプラ水道が単一水源ではなく、複数の水道からの水を混合して供給するシステムに変わったことを示唆しています。なお、アグリッパによるこの改修によってテプラ水道の具体的な流路もいくらか変更されたようで、建設当時の正確な経路情報はフロンティヌス自身も完全に把握していなかったと伝えられています。

市内への経路と構造

ローマ市街へ向かうテプラ水道の導水渠は、いくつかの特徴的な構造を持っていました。特にラテン街道沿いの約7マイル（約11km）地点付近からは、ユリア水道、テプラ水道、マルキア水道という三つの水道の導水渠が、同じ一つの水道橋の上に順番に重ねる形で建設されていました。これは建設コストや用地の制約を克服するための工夫であったと考えられます。

これら三つの導水渠は、重ねられた状態でローマ市街の入り口の一つであるティブルティーナ門まで進みました。ティブルティーナ門で古代のアウレリアヌス城壁を越えた後、それぞれの導水渠は分離し、ローマ市内の各給水場所や公共施設へ水を供給していきました。

ローマ市に到達する地点での主要な水道の導水渠の高さを比較すると、フロンティヌスの記録によれば、最も高いのが新アニオ水道、次いでクラウディア水道、ユリア水道、そしてテプラ水道はこれらに次ぐ四番目の高さであり、マルキア水道が最も低い位置を流れていました。この高さの違いは、市内の高低差を利用して水を分配する上で重要な役割を果たしました。

テプラ水道は、その独特の水質や、他の主要な水道（ユリア水道、マルキア水道、新アニオ水道など）との複雑な関係性、そして複数の導水渠が一つの水道橋上に重ねられるという構造的な特徴から、古代ローマの高度な水道技術とその運用状況を知る上で興味深い事例となっています。


関連項目

ローマ水道
ローマ水道橋公園



参考文献

* セクストゥス・ユリウス・フロンティヌス『ローマ水道技術書』

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